ブラジルをリスペクトも、予選好調=本大会で苦戦か
いよいよカタールW杯が開幕します。欧州のシーズン中に開催されるのははじめてで、コンディション、ケガ人も含めていろいろな展開が考えられます。スタジアムにエアコンが付いているとはいえ、暑さも踏まえないといけない。勝ち上がる過程でターンオーバーが必要で、チームのマネージメントが非常に難しい大会です。
そうしたなか、私はブラジルをリスペクトしていますが、セルビア、スイス、カメルーンというロシア大会と3カ国が同じというグループGになりました。カメルーンのところにコスタリカがいた4年前はブラジル、スイスがラウンド16に進出していますが、なかなか厳しいグループです。
ブラジルはタレントが揃っていますが、ロシア大会初戦のスイス戦に引き分けるなどスロースターターです。また、南米予選を圧倒的な成績で勝ち抜きましたが、「南米予選で圧倒すると本大会で苦戦する」と言われています。ただ、ネイマールにとって最後のW杯になると予想され、ヴィニシウス・ジュニオール、ハフィーニャ、ロドリゴ、リシャルリソンなど動ける選手がまわりに揃っていて献身的な守備で助けてくれます。苦しむとは思いますが、ネイマールの良さが引き出されているいまのブラジルは順当に勝ち上がるでしょう。
ピクシー(ドラガン・ストイコビッチ)が監督を務め、喜熨斗勝史さんがコーチを務めるセルビアにも頑張ってほしいです。喜熨斗さんは私が平塚(現湘南ベルマーレ)でプレイしていた時期にユースのフィジカルコーチを務めていて、ピクシーが監督だったときの名古屋でコーチを務めていました。お互いを分かり合っている2人です。
そのセルビアの前線にはアレクサンダル・ミトロビッチ、ドゥシャン・ヴラホビッチという強力なストライカーがいます。優勝候補であるブラジルはもちろん、スイスも昨年のEUROでベスト8に入っている強豪で、さらにはカメルーンもしたたかに番狂わせを狙っています。セルビアを率いるピクシー&喜熨斗さんのコンビがこのタレントたちをどう起用し、どんな戦いをみせるか注目しています。
イングランドが危ない!? 初戦で勝点3がマスト
ポルトガル、ガーナ、ウルグアイ、韓国という4大陸から4か国が入ったグループHにも期待しています。構図としては日本が入ったグループEと同じで、ポルトガルとウルグアイの2強に対して、ガーナと韓国が挑むカタチです。
私はセリエAをよくみているのですが、ミランで活躍するポルトガル代表のラファエル・レオンはホントにすごい選手です。ヌルヌルと抜けていくドリブラーで、スピードもあります。いまセリエAには日本人選手がいないため、あまり話題になっていないかもしれませんが、今後にもっとビッグネームになっていくだろう23歳です。最後のW杯になるクリスティアーノ・ロナウドとともに、ラファエル・レオンは見逃せません。
ウルグアイはルイス・スアレス、エディンソン・カバーニが健在で、長期政権を築いていた前任者のオスカル・タバレスからチームを引き継いだディエゴ・アロンソ監督がしっかりと武骨な戦いを踏襲しています。レアル・マドリードでプレイするフェデリコ・バルベルデも好調で、W杯でどんなパフォーマンスをみせてくるか非常に楽しみです。
この両国に対して、ガーナと韓国がどう立ち向かうかですね。ガーナは11月12日時点でまだ26名の登録選手を発表していませんが、スペイン代表歴を持つイニャキ・ウィリアムス、ベルギー代表歴を持つデニス・オドイなど国籍を変更した選手数名の代表入りが予想されます。アーセナルのトーマス・パルティもいてクオリティの高い選手が多いです。
韓国はソン・フンミンの負傷が心配されますが、私はナポリでプレイするキム・ミンジェに注目しています。勝点を奪うためには失点をしないことで、ポルトガル、ウルグアイ、ガーナの攻撃を抑えなければなりません。キム・ミンジェは強い身体を持ち、俊敏性もあります。他にも欧州でプレイする選手が多く、韓国もそう簡単にはやられないでしょう。
順当であれば、ポルトガル、ウルグアイが勝ち上がることが予想されます。ただ、ガーナ、韓国もタレントは揃っています。激戦になるかもしれません。
イングランド、イラン、アメリカ、ウェールズのグループBは、波乱が起こる可能性があります。本命はイングランドですが、あまり調子がよくなくて結果が出ていません。ただ、ハリー・ケインという絶対的なエースがいるので、準優勝した昨年EUROのころのような一体感を取り戻せれば勝ち上がるでしょう。つまりは、ガレス・サウスゲイト監督がチームをどうマネージメントするかがカギを握ることになります。
イラン、アメリカ、ウェールズと続く対戦スケジュールを考えると、イングランドは初戦でイランから勝点3を取ることがマストです。アメリカが油断できない相手なのはもちろん、最後にウェールズが待ち受けています。ウェールズは1958年大会以来の出場でただでさえ気持ちが入っているところに、強い対抗心があるイングランドと対戦することで気合十分です。3戦目にラウンド16進出がかかってしまうのは、イングランドは避けたいところです。
日本が16強入りしたなら世界的には大波乱となる
スペイン、コスタリカ、ドイツ、日本。このグループEを日本が勝ち上がったなら、世界的にみれば大波乱です。日本にとって重要なのはやはり11月23日のドイツとの初戦で、なんとか勝点をもぎ取ってほしいです。国内でのサッカー熱を考えても、初戦は大事です。勝てばもちろん、引き分けでも注目度がグッと高まります。逆に、負けてしまうと「やっぱりか……」となってしまいます。
ただ、ドイツはバイエルン勢が調子を上げています。発表された26名にはズラッとバイエルン勢が並んでおり、彼らが中心になるのは間違いありません。なにしろ、ハンジ・フリック監督ももとはバイエルンの監督です。さらに、日本にとってイヤなことに、ティモ・ヴェルナーが負傷した前線に長身で屈強な身体を持つターゲットマンであるニクラス・フュルクルクも代表入りしています。
いずれにせよ、グループステージで敗退したロシア大会の二の舞にならないように、日本のことをしっかり研究していると思います。どう準備してくるかわかりませんが、ドイツは間違いなく100%の力できます。その相手から勝点を奪うためには、日本はあとのことは考えずこの試合でやり切るぐらいの気持ちで臨んでいいと思います。
中山雄太の負傷離脱に続き、遠藤航の脳震盪、冨安健洋の負傷など心配事が尽きませんが、とにかく競り合いに持ち込み、セットプレイでもなんでもいいので先制点がほしいですね。正直、いまのチームはセットプレイからの得点をあまり期待できないですが、私はポジティブに考えて“隠してる”と思っています。
また、奪ったボールをフィニッシュにつなげるためには、前線の選手が逃げずにパスの受け手にならないといけないです。前田大然や上田綺世といった受け手が逃げてしまうと、パスの出し手にミスが生まれるケースがあります。ドイツだけでなくスペインもハイプレスできますが、出し手の選択肢を増やすためにも前線の選手にはしっかり戦ってほしいです。
リードして試合終盤を迎えたら、先日のアメリカ戦のように後ろを厚くして5バックで守ることを想定していると思いますが、気持ちまで引いてしまうと怖いです。ここでも逃げるのではなく、強度の高さを維持して戦い抜いてほしいです。
最後に、今大会が最後のW杯になるだろう選手たちにも頑張ってほしいですね。クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ、ダニエウ・アウベス、ルイス・スアレス、エディンソン・カバーニ、ルカ・モドリッチ、マヌエル・ノイアー……。それぞれの選手が、それぞれの思いで戦うW杯になります。
ロベルト・レヴァンドフスキ、カリム・ベンゼマも最後かもしれません。30歳のネイマールも期するところ
があると思います。日本にも吉田麻也、長友佑都など最後のW杯になるだろう選手たちがいます。各選手のプレイをしっかり脳裏に焼き付けたいと思っています。
構成/飯塚 健司
電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)275号、11月15日配信の記事より転載