【識者コラム】森保体制の継続はありか? 日本代表の監督にふさわしい人物像とは
日本代表はカタール・ワールドカップ(W杯)をベスト16の成績で終えたなか、新たなサイクルを迎える代表チームを誰が率いるのかが注目されている。
森保一監督の続投案、外国人監督招聘プランが挙がっているとされるが、現体制の継続に関して言うと、今回で1つ区切りを付けて、新たな監督とともに次のサイクルに入っていくのが理想と考えている。
ただし、現在は実績のある監督ほど4年サイクルというのを好まない傾向にあり、資金面に増して交渉が難航する要因にもなっているはずだ。
その意味では2年サイクルで評価していくのも1つだが、評価の指標になる大会がなく、アジアカップの開催時期もズレている。ただ、森保監督にそのまま任せる場合は来年末に予定が見込まれるアジアカップが、5年目の評価基準になるため、新監督よりも立てやすいというのがあるかもしれない。
ノックアウトステージがラウンド32からになる2026年の北中米W杯はその2年半後なので、最終予選も含めてその期間を森保監督で行くのか、新監督で行くのかを見極める猶予期間をもらえるというのが実情ではある。
ただし、もっと長期的な視野に立つと、果たしてそれで良いのかどうかという疑問もある。ここから日本がどういう目標設定をしていくべきか。今回はカタールW杯という開催時期や準備、環境なども特殊な事情がある大会で、例えば、日本と同組だったドイツ代表や前回3位のベルギー代表のグループリーグ敗退に続き、スペイン代表がモロッコ代表にPK戦で敗れて早々に大会を去るといったことが起きている。
もともとサッカーの大会はコンピューターゲームのように、経験値を稼いでレベルアップしていけば目の前の敵を倒せるといったものではない。実際にベスト8という景色を見ながら、その後に低迷したり、予選すら勝ち上がってこられない国もあるのだ。
そんななかで日本は98年のフランス大会から7大会連続でW杯の本大会を経験し、うちベスト16が4回、そのうち、PK戦での敗退が2回と着実に世界の強豪に近づいてはいる。ただ、ドイツ戦やスペイン戦を見れば分かるとおり、90分、常に優勝を目指している列強に真正面から挑んでゲームの主導権を握れるほどの実力もチーム力も足りていない。
ただ、ここから「ベスト8」というのを目標にする必要はないというのが筆者の考えだ。確かに今回の挑戦でその壁は破れなかったが、さらに先を目指しながら結果がベスト8なのか、ベスト4なのか、もしかしたらファイナルに行けるのか。現場レベルでは森保監督も「ベスト8以上」という表現を使っていたが、たとえば今回スペインをPK戦で破ったモロッコから明確に「ベスト8」という目標は聞こえてきたわけでもない。
W杯は今回のベルギーやドイツがそうであるように、いかなる強豪でも早期敗退してしまうことがある。それは日本が今以上にチーム力を上げたとしても、十二分に起こりうることだ。ただ、ノックアウトステージでクロアチア代表のようなチームとも勝負ができたことに自信を持って、前に進むべきだと思う。
森保監督がやってきたような手法では、ファン・サポーターへの影響力は乏しい
そのうえで判断が難しくなるのは今回、森保監督が選手たちの経験をチームに集約させる形で、2大会連続でのベスト16を果たし、ひょっとしたらベスト8というところまでは行けたが、その方式をさらに続けていくのか。それとも日本代表としての戦術的なプレーモデルをある程度、固めながらアップデートさせていくのかである。筆者の考えは後者だ。
理由は日本代表というのはW杯での結果も大事だが、日本サッカーの指標としてJリーグや育成年代にも影響を与えるべき存在であるから。その点が現在の日本代表には欠けているのではないか。もちろん代表とクラブでは強化にかけられる時間も違えば、プロセスも異なるので、成熟度という意味ではクラブのほうが有利だ。
そうしたなかでカタール代表やサウジアラビア代表のように、準クラブ化して戦術理解や連係面を高めたチームが、日本より躍進できたわけでもない。ただ、海外組が中心になり、Jリーグからの招集がますます少なくなる可能性もあるなかで、日本のファン・サポーターがビジョンを共有して見守り続けられる存在になっていくには、この4年半で森保監督がやってきたような手法だと難しい。
もちろん選手は国内外のいろんなチームに所属しており、ひと口に欧州組と言っても経験している環境や戦術がバラバラであることははっきりしている。それでも代表のプレーモデルをしっかり持ったうえで、そこに選手たちがアジャストしていく部分、色んな環境でやっているからこそ持ち込めるアップデートの要素を合わせていくような方向性がベスト8というよりも、常に優勝を争うレベルで世界の強豪と渡り合っていくベースになると考えている。
それを可能にする指導者としてモデルケースになるのはポルトガル代表のフェルナンド・サントス監督のような存在だ。チームの継続的なベースを持ちながら、クリスティアーノ・ロナウドを筆頭に選手の個性をうまくつなぎ合わせて、継続性と柔軟性を併せ持つチームを作り上げている。
代表監督はどれだけ確固たる戦術を持っていても、それがトップダウン過ぎると、そこに合わないタレントが外れてしまったり、時には不要な確執を招いてしまうこともある。逆にボトムアップ過ぎても、選手間のすり合わせがチーム作りの中心になる以上、分かりにくい代表というのが続くことになる。
そうしたことも踏まえて、代表監督の経験があることが1つの条件にはなるが、そうでなくても継続性と柔軟性の両方を持っている監督ならば、日本代表を任せるには相応しいはず。当面、森保監督に継続してもらうというのは現実論としてあるかもしれないが、それが”逃げ”にならないことを願いつつ、見守っていきたい。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)