サッカー日本代表が決勝トーナメント進出を決めた裏で、ドイツ代表のグループリーグ敗退が決まった。2014年大会を制したドイツ代表はその後、2大会連続でグループリーグ敗退に終わっている。果たして、今のドイツ代表に何が起きていたのか。第2回では元日本代表DF酒井高徳と、シュトゥットガルト在籍時代に酒井を通訳としても支えた河岸貴氏も加えて話を聞いた。※インタビューは第2戦後の11月30日に実施(取材・文:加藤健一)
●酒井高徳「ヨーロッパの引いて守る相手は雑」
――ドイツ代表がボールを持つ展開で、日本代表は引いて守る形を選びました。
酒井「ドイツ代表は今までも引いた相手とたくさんやってきたと思いますけど、日本代表はちょっと違うんですよ。日本代表は規律正しく守るし、それを続ける体力もある。引いてくる相手の中でも難しいと思うんですよね」
河岸「UEFAネーションズリーグをこなしているから、チームとして真剣活動の場が多いはず。でも、だからこそ他の大陸とできなくなり、ヨーロッパの似ているチームとばっかりやる。大会前にオマーン代表と対戦したけど日本代表とは全然違う。その影響は感じた?」
酒井「ヨーロッパの引いて守る相手って雑なんですよ。人が揃っているにもかかわらず無駄なところで出ていって裏取られたりする。でも日本は絞るとか、チャレンジ&カバーとか規律正しくできる。特に長友(佑都)くんや(酒井)宏樹は、世界でもそれをハイレベルにやってきた。板倉(滉)や(吉田)麻也君もそういうのが得意だと思うんですよね」
――そういった意味でドイツ代表にもやりにくさがあったのでしょうか。
酒井「試合序盤にカウンターが1回あったので、そのクオリティーがあるという恐怖はどこかで抱いたと思います。全体的に見れば高い位置を取っていた(ダヴィド・)ラウムの方(日本代表の右サイド)からカウンターを受けていたわけですけど、日本代表のボールの取り方にそれが出ていましたよね。真ん中で取ってサイドの選手、特に右の選手が出ていくという形がありました。それはドイツ代表にもひしひしと伝わっていたと思います」
●河岸貴「攻撃がちぐはぐだった」酒井高徳「0トップの弊害」
――規律正しく引いて守り、中央で奪ってサイドに展開する。これがドイツ代表にとっては気になっていたと。
酒井「閉めるところを閉められていたので、前を向きづらいし、パスを刺しづらかった。日本代表も縦を切って間を通させないようにしていた。ドイツ代表が味わったことのない面倒臭さみたいなものがあって、やりにくさを感じていたんだと思います」
河岸「まるでエイリアンのような未知の相手と対戦している感じで、どう考えてもドイツ代表がピリッとしないのが70分くらいまで続いた。でも、そこから日本代表が逆転するというのを想像するのは難しかった」
河岸「攻撃がちぐはぐだった。1トップに典型的な9番がいないから起こるのかなと思うんだけど、選手としてどう思う?」
酒井「ストライカーがいないことによって、走らなくてもいいところに走っちゃって、大事なところにいないという0トップの弊害が出ていた。(マンチェスター・)シティとかがやってた0トップは、1トップが動いた次をシャドーが狙っているから点が取れる。でも、ドイツ代表の場合、(カイ・)ハフェルツが動いたスペースにシャドーがいなかった」
●「ドイツ代表は策を持っていなかった」
――ドイツ代表だと誰がそこに入ることになるのでしょうか。
酒井「(ジャマル・)ムシアラだったり(イルカイ・)ギュンドアンだと思うんですよね。でも、たぶんギュンドアンは自分でどうにかしないといけない、チームの状況が良くないというのを一番察知していたと思うんです。本来のギュンドアンってボランチの1つ前にいて、裏を取ったり、ポケットを取りに行ったり、FWの下で動いて前を向いたりというプレーをすると思うんですけど、前半からDFに近かったんですよね。それがすごく気になった」
酒井「そうすると、(ヨシュア・)キミッヒが居心地悪そうになってしまう。1本目のカウンターのときに取られたじゃないですか。ギュンドアンもこのままじゃだめだ、どうにかしなきゃというのがプレーに出ていたと思うんですけど、それが結果的にうまくいかずに(67分に)替えられてしまいました」
河岸「キミッヒとギュンドアンがミスマッチだったと思う。キミッヒのところで普段ではないボールロストが多かったし、そこが狙われていた。ツヴァイカンプフ(1対1)が弱くて、キミッヒらしいパス、背後へのロブパスみたいなのがあまりない。ほとんどボールロストしない人間なはずなのに、日本代表戦ではそれが多かったし、バックパスも多かったね」
――後半に入り、日本代表が3バックに変更しました。試合の潮目が変わったのはどこだったのでしょうか。
酒井「フォーメーションを変えた日本代表のプレスに対し、ドイツ代表は策を持っていなかった。イレギュラーが起きたときの対処も遅かったし、交代で入る選手も、交代の質自体も良くなかった」
――日本代表は57分に三笘薫と浅野拓磨を入れ、71分に堂安律を入れて攻撃的な姿勢を見せました。
酒井「同点にされる前に2、3回、ズーレの方で崩されているんですよ。これはもう1点入るなと思ったら、本当に同じ形で同じサイドからでした」
●「舐めているプレーが多かった」選手とは?
酒井「サッカーって気持ちを合わせるとか団結して力を合わせるとか言いますけど、やっぱり最後は11人なんですよ。誰か1人でも集中力がないプレーをすると勝てない。チームプレーじゃなく個人個人が分かっているかどうか」
酒井「あの試合に関して言えば圧倒的にズーレがその1人だった。攻撃の時から舐めているプレーが多かったし、どうせとられないだろう。身体を入れれば大丈夫だろうと。『これくらいで大丈夫』が一番よく出ていた選手だった」
――日本代表の逆転ゴールは、ズーレがオフサイドラインに残っていたことで、浅野が抜け出すことができました。
酒井「自分もサイドバックだから気持ちはよくわかるんですけど、マークしなければいけない選手が2人いたので、割り切ってついていくか、完全に切るかしないといけなかった。リュディガーも試合後に『あれは誰かのせいではなく、ディフェンスラインとしてのミス。俺らのレベルでは起きてはいけない』と言っていた。それくらい当たり前のことだった」