FIFAワールドカップカタール2022もベスト4が出揃い、ようやく頂点が見えてきた。準決勝ではアルゼンチン代表とクロアチア代表、フランス代表とモロッコ代表が、それぞれ決勝戦の切符をかけて激突する。まずは現地時間13日に行われる準決勝第1試合、アルゼンチンvsクロアチアである。
36年ぶりの頂点を目指すアルゼンチンと、初優勝を狙うクロアチア、それぞれの“因縁”を振り返ろう。
■対戦成績は五分
ブックメーカーのオッズやデータ会社の予想を見ると、今回の対戦はアルゼンチンが有利と見られているが、過去の対戦成績は五分。得点数まで見ると、むしろクロアチアの方が好成績を残している。親善試合などを含め、両者は国際Aマッチでこれまで5度対戦。結果は「2勝1分け2敗」と全くのイーブンだ。1994年の親善試合でゴールレスドローを演じて以降、互いに2勝ずつ挙げている。しかしゴール数を見るとクロアチアが「7得点5失点」と若干だがリードしている。
肝心のワールドカップでの対戦に限ると、これまで2度対戦している。ワールドカップでの初対戦は、日本のファンにとっても思い出深いものだろう。日本代表が初めて世界の舞台に立った1998年フランス大会で、両チームは日本と同じグループHに入っていた。両者とも最初の2試合で勝ち点6を稼いで早々に突破を決めたあと、1位通過の座をかけて第3戦で激突した。試合はFWガブリエル・バティストゥータやMFディエゴ・シメオネを擁するアルゼンチンが、DFマウリシオ・ピネダのゴールで初出場のクロアチアを1-0で退けた。
その時の対戦を知るメンバーが今大会の代表チームにも残っている。アルゼンチン代表では、当時の試合でDFリーダーとしてフル出場したロベルト・アジャラが、現在は代表チームのアシスタントコーチを務めている。クロアチア側でも、現代表チームのアシスタントコーチであるドラジェン・ラディッチとGKコーチのマリヤン・ムルミッチは98年大会のメンバーだった。
ワールドカップで2度目の対戦となったのは前回大会だ。再びグループステージで同組に入った両者は第2戦でぶつかり、その時はFWアンテ・レビッチ、MFルカ・モドリッチ、MFイヴァン・ラキティッチのゴールでクロアチアが3-0で快勝した。主将としてゴールを決めたモドリッチを含め、クロアチアはその試合に出場したメンバーが今大会に7名も残っている。対するアルゼンチンもキャプテンのFWリオネル・メッシを筆頭に、現メンバーのうち5名が当時の試合にも出場していた。
■アルゼンチン戦は幸運?
アルゼンチン戦は“幸運”を呼ぶ試合かもしれない。前述の通り、クロアチアは初出場した1998年大会でアルゼンチンと同組に入ると、グループステージでの対戦で敗れるもグループ2位で決勝トーナメントに進出。FWダヴォール・シューケルやMFロベルト・プロシネツキ、DFロベルト・ヤルニなど“第一次黄金世代”を擁するクロアチアは、ラウンド16でルーマニアを退け、準々決勝ではドイツに3-0で快勝。準決勝では開催国のフランスに敗れるも、3位決定戦でオランダに勝って、初出場ながら3位に輝いた。
2度目に対戦した2018年大会でも、アルゼンチンがラウンド16でフランスに敗れるなか、1位通過のクロアチアは延長戦やPK戦までもつれる試合を制して決勝トーナメントを勝ち上がっていった。決勝ではフランス相手に涙を飲むも、モドリッチやFWマリオ・マンジュキッチなどの“第二次黄金世代”の活躍もあり、過去最高成績となる準優勝に輝いた。なんとクロアチアは、アルゼンチンと対戦した2大会では必ず3位以上の好成績を残しているのだ。
また、クロアチアとアルゼンチンの対戦は、フランスにとっても幸運をもたらす試合なるかもしれない。1998年大会、快進撃を見せたクロアチアを準決勝で倒して初めて頂点に輝いたのが開催国のフランスだった。そして前回の2018年大会も、決勝でクロアチアを4-2で下して優勝したのはフランスだった。そして、クロアチアとアルゼンチンが激突する3度目のワールドカップである今大会も、フランスは準決勝まで勝ち上がっている。アルゼンチンとクロアチアが対戦した過去2大会は、クロアチアが好成績を収め、最終的にはフランスが頂点に立つことになっていた。今大会は果たして…!?
■モドリッチの思い出の一戦
クロアチアの中盤でタクトをふるう37歳のモドリッチにとって、アルゼンチン戦は忘れることのできない思い出の一戦だ。ゴールを決めた2018年大会の対戦も思い出深いが、それよりも特別なゲームがある。クロアチア代表で歴代最多の160キャップを誇る偉人が、代表デビューを飾った試合こそアルゼンチン戦なのだ!
2006年3月1日、当時20歳のモドリッチはスイスのバーゼルで行われたアルゼンチンとの親善試合で記念すべき代表デビューを果たした。当時ディナモ・ザグレブに所属していた若武者は、14番をつけて先発出場すると、84分までプレーしてチームの3-2の勝利に貢献した。
モドリッチは初招集された際には「心臓が爆発しそうだった」と、自叙伝の中で当時の興奮を振り返っている。そして「穴の開いたスパイク」でデビューを果たしたと説明している。試合開始の2時間前、モドリッチは自身のかかとの皮膚が炎症を起こしているのに気づいたという。それでも代表デビューを飾りたい一心で、患部が圧迫されるのは防ぐためにスパイクのかかとに穴を開け、かかとをテーピングで巻いてピッチに立ったという。
■メッシにとっても記念すべきゲーム
モドリッチは2006年の対戦について、自叙伝の中で「自分の代表デビュー戦というだけでなく、メッシが代表初ゴールを決めた試合ということでも覚えている」と振り返っている。そうなのだ。2006年の対戦は、20歳のモドリッチが代表デビューを飾り、18歳のメッシがアルゼンチン代表での初ゴールを決めたゲームだったのだ。
2005年に代表デビューを果たしたメッシは、代表での6試合目となったクロアチア戦で代表初ゴールをマーク。ブカブカの背番号19のユニフォームを着たメッシは、前半4分にカルロス・テベスのゴールをお膳立てすると、その2分後には自らドリブルで仕掛けていき、カットインから左足でファーサイドを狙う得意の形でネットを揺らした。そして、まるで子供のような無邪気な笑顔でチームメイトのフアン・ロマン・リケルメに抱き着いたのだ。
モドリッチも18歳のメッシのスピードとボールコントロールに驚かされたそうで、「俊敏で一瞬にして方向転換できる。スター選手になるのは明らかだった」と綴っている。
あれから16年半の歳月を経て、再び交わる両国の英雄。20歳と18歳の若武者だった彼らも、今ではチームを牽引するキャプテン同士。そして、それぞれの国の歴代最多キャップを誇り、ワールドカップ決勝の切符をかけて相まみえる。
(記事/Footmedia)