カタールワールドカップは終盤に差し掛かり、今大会ならではの様々な傾向が明らかになってきている。
現地12日にはFIFA(国際サッカー連盟)のテクニカルスタディーグループが準々決勝までの動向について語るメディアブリーフィングが行われ、6人のテクニカルスペシャリストが出席した。
元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏や元ドイツ代表のユルゲン・クリンスマン氏らが登壇した会見で注目を集めたデータの1つが、前後半90分間と延長戦における「PK阻止率」に関するものだった。
前回2018年ロシア大会では17%だったPK阻止率が、今大会は準々決勝までの段階で36%にまで向上しているという。まだ準決勝や3位決定戦、決勝と重要な4試合が残された段階とはいえ、4年前の約2倍という数字は驚異的と言えよう。
テクニカルスペシャリストの1人である元スイス代表GKのパスカル・ツーバービューラー氏は「GKのPK阻止率の向上は信じられないほどだ」と感嘆の声を上げた。そして、次のように続ける。
「PKの際に片足をラインの上から離してはならないというルールが導入された当初、GKたちはそれにうまく適応できなかった。我々は新しいルールはGKにとって不利になると各方面に主張してきたが、数字は誰の目にも明らかに向上している。36%というのは非常に高い確率だ」
サッカーの競技規則を制定するIFAB(国際サッカー評議会)は、2019/20シーズンからPKに関するルールを改定。GKはキッカーがボールを蹴る瞬間まで少なくとも片足をゴールライン上に残しておかなければならないこととなった。
これはGKにとってPKへの対応が難しくなるルール変更で、導入当初はタイミングが合わずに早く跳びすぎてPKやり直しやイエローカードの対象となる例も見られた。現在では少しでも強く速く跳ぶため、あえてゴールの中から動き始めるGKもいるほどだ。
ところが今大会のPK阻止率のデータを見ると、世界のGKたちは現在の競技規則にうまく対応し、その中で進化を遂げていることがわかる。元コロンビア代表GKのテクニカルスペシャリスト、ファリド・モンドラゴン氏はこう語る。
「GKが新たなルールに適応した方法は信じがたいものだった。ゴールライン上に片足を残したうえでセーブするのに必要なタイミングと集中力を極め、さらにセーブの爆発力も上がっている」
グループステージではポーランド代表FWロベルト・レバンドフスキがメキシコ代表GKギジェルモ・オチョアに渾身のPKをセーブされた。アルゼンチン代表FWリオネル・メッシはポーランド代表GKヴォイチェフ・シュチェスニーにPKを阻止されている。
彼らのみならず、サッカー日本代表とのPK戦で3本をストップしたクロアチア代表のGKドミニク・リヴァヴィッチなどPKの場面でGKがフィーチャーされたことは多い。
ツーバービューラー氏は「GKがボールをセーブする場所は、ゴールラインから約1.5メートル手前になる。コーチとGKがともにトレーニングしてきた成果が、この『36%』という数字にはっきりと表れていると思う」と述べる。
一方、ワールドカップ3大会に出場し、最年長出場記録も持つモンドラゴン氏は「ここまではGKにとって素晴らしいワールドカップになっていることを嬉しく思う。自分のチームを準決勝に導いた4人のGKは、セーブし、攻撃を組み立て、PK 戦でもPKを阻止するなど、決定的な役割を果たしてきた」と“後輩”たちの活躍に目を細める。
クロアチア代表のリヴァコヴィッチ、アルゼンチン代表のGKエミリアーノ・マルティネス、フランス代表のGKウーゴ・ロリス、そしてモロッコ代表のGKヤシン・ブヌとベスト4に進出した各チームの守護神たちは、世界の頂点に向けた戦いの中でどんな活躍を見せてくれるだろうか。
彼らの働きしだいでは、カタールワールドカップがのちに「GKの大会だった」と言われることになるかもしれない。
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【全試合日程・結果・放送予定】サッカーFIFAワールドカップカタール2022
【決勝トーナメント表】FIFAワールドカップカタール2022<組合せ>