現地時間18日に行われたワールドカップ決勝戦は、アルゼンチンがフランスとの死闘を制して36年ぶり3度目の優勝を果たした。

 アルゼンチンに圧倒されていたフランスが土壇場で追いつき、延長戦でも両エースが点を獲り合い、結局3-3でPK戦決着となった。近年稀に見る好ゲームだったが、どれほどの名勝負だったのか振り返ってみよう。

[写真]=Getty Images

■史上最高の決勝戦!?

リオネル・メッシ

 役者が結果を残し、計6ゴールが飛び交い、世界的な選手がなりふり構わずボールを蹴りだし、力尽きて倒れる選手も出るなか、最終的には世界中が望んでいた結果に…。恐らく「歴代最高の決勝戦」と感じた人も多いはずだが、その感覚は間違っていない。

 英紙『テレグラフ』は「最も偉大なワールドカップ決勝戦となった11個の理由」という記事を掲載。1つ目の理由に挙げられたのは「完全に予測不能な展開」だ。前半のフランスの不甲斐なさも、後半のアルゼンチンの崩壊も、さらに珍しくゴールが生まれた延長戦も予測不能だった。そのため『テレグラフ』は、マッチレポートの担当者に同情した。「試合の興奮度はスタジアムでマッチレポートを担当する記者のストレスと比例する。いわゆる“書き直しの法則”だ。現地にいた記者の指とノートパソコンのキーボードのご冥福を願う」

 さらに「役者の活躍」も理由に挙げている。「試合前に選手個人を誇大広告するのは危険だ。フットボールは我々が思い描く物語を裏切る傾向がある。だが『メッシvsエンバペ』の決勝戦だけは違った」として両チームのエースを称えた。ハットトリックのエンバペに称賛を送りつつも、最も驚いたのは「メッシが何度か重要なタックルを繰り出したこと」と振り返った!

 さらに完璧なチームゴールとなったアルゼンチンの2点目を「驚異的」と称えつつも、それ以上に「エンバペのとんでもない2点目」を称賛。英国放送局『ITV』の試合中継では解説を担当したアリー・マッコイストとリー・ディクソンが、まるで選手がシュートを外したときのように「トラップすべきだった」と繰り返したという。それほど、あの状況下でノートラップのボレーシュートを叩き込んだエンバペのプレーは人知を超えた「不可能なものだった」という。

キリアン・エンバペ

 その他にも「試合中に涙を流す選手」として、ベンチに下がったあとに涙を流しながらチームメイトの勇姿を見守ったアンヘル・ディ・マリアに触れたほか、「VAR論争も起こらず」として試合を裁いたポーランドのシモン・マルチニアク主審の「非の打ち所のないジャッジ」を称えた。そして、最も偉大なファイナルだった最後の理由として「メッシがトロフィーを掲げる光景」を挙げた。

■延長戦、そしてPK戦決着

アルゼンチン代表

 ワールドカップの決勝戦は接戦になることが多いが、今回を含めて最近5度のファイナルのうち実に4試合が延長戦までもつれたことになる。それでもPK戦決着は1994年と2006年に続いてわずかに3度目だ。2006年の決勝でイタリアにPK戦で敗れているフランスは、2度目のPK戦での失意となった。運の要素が強いPK戦だから仕方ないとも言えるが、今大会の準々決勝でオランダにPK戦で勝利していたアルゼンチンは、これがワールドカップ歴代最多記録を更新する7度目のPK戦で、結果は6勝1敗。

 一方で、フランスは通算5度目のPK戦で2勝3敗。2勝は1986年と1998年の準々決勝で挙げたもので、準決勝と決勝のPK戦は3戦全敗という成績になっている。さらに、ワールドカップでの過去11回のPK戦のうち9回は後攻のチームが勝っており、フランスの主将ウーゴ・ロリスはコイントスに勝ちながら先攻を選んで敗れることになった…。

■メッシとエンバペ

エンバペ、メッシ

 大舞台でこれほど“注文以上”のプレーを見せてくれたスターが他にいただろうか? エンバペは1966年大会のイングランドのジェフ・ハースト以来、56年ぶり史上2人目のワールドカップ決勝でのハットトリックを達成した。2018年大会の決勝でもネットを揺らしているエンバペは、これでワールドカップの決勝で通算4点目。ペレ(BRA)、ヴァヴァ(BRA)、ハースト(ENG)、そしてジネディーヌ・ジダン(FRA)の3ゴールを抜いてワールドカップ決勝での歴代最多ゴール記録を打ち立てた。

 今大会は8ゴールで得点王にも輝いた。8ゴールは過去13大会で見ても、2002年のロナウド(ブラジル)と並んで最多ゴールである。これでエンバペはワールドカップ通算ゴール数を12まで伸ばし、歴代6位で偉大なペレに並んでいる。12月20日に24歳の誕生日を迎えるエンバペは、このペースでいけば4年後にはドイツのミロスラフ・クローゼが持つワールドカップ歴代最多記録の16ゴールを抜き去るかもしれない!

 だが、最後に笑ったのはパリ・サンジェルマンの先輩であるメッシだった。2014年の決勝でドイツの前に涙を呑んでいたエースは、今回の戴冠でほぼ全てのタイトルを手中に収めたことになる。バロンドール7回、欧州ゴールデンシュー(欧州得点王)6回、チャンピオンズリーグ優勝4回、FIFAクラブワールドカップ優勝3回、U-20ワールドカップ優勝1回、オリンピック優勝1回、コパ・アメリカ優勝1回…。

 悲願のワールドカップ制覇を達成しただけではない。今大会は、グループステージ、ラウンド16、準々決勝、準決勝、決勝と1つの大会の全ラウンドでゴールを決めた史上初のプレーヤーとなった。7ゴールは得点王のエンバペ(8点)に一歩及ばなかったが、それでも納得の大会MVPだ。2014年大会はメッシのゴールデンボール受賞の是非を巡って論争が起きたが、今回は誰にも文句を言わせない。まさに「メッシの大会」だったのだ。ちなみに、1982年にゴールデンボールが導入されて以降、2度の受賞はメッシしかいない。

メッシ

 今回の決勝での2ゴールにより、メッシはワールドカップ通算26試合13ゴール。ドイツの英雄、ローター・マテウス(25試合)を抜き去り、ワールドカップの歴代最多出場記録を更新した。これでメッシはアルゼンチン代表で172試合98ゴール。クラブチームも合わせるとキャリア通算1003試合で793ゴールとなった。

 歴代最高のプレーヤーは、1003試合目でようやく世界最高の景色に辿りついたのだった…。

(記事/Footmedia)