今年も残すところあと7日となった。本稿では、2022年のサッカー界における名場面を『サッカーダイジェストWeb』のヒット記事で振り返る。今回は、セレソンと戦った日本と韓国の違いを、ブラジル人記者が率直に綴った関する記事を再掲する。
記事初掲載:2022年6月10日
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今回のブラジル代表のアジア遠征は、前半と後半で大きく色合いが違っていた。ソウルでの明るく、軽妙で、スピーディーでゴールの多い前半。そして東京での寒く、重く苦しく、痛みの伴う後半……。
韓国は立ち上がりすぐに失点したものの、前半はほぼブラジルと互角に戦っていた。ただし41分にネイマールにPKを入れられた時から、急に緊張が解けたかのように崩れてしまい、最終的は1-5という結果になった。
ただ、私の感想としては、そこまで大敗する内容のチームではなかったと思う。韓国の唯一の得点、ファン・ウィジョのゴールはゴラッソだった。パウロ・ベント監督がポルトガル人だからかではないだろうが、“ポルトガル風”のゴールだった。
一方、日本は全員守備と度重なる危険なファウルで、ブラジルを抑え続けた。大量失点はしなかったが、得点も生まれなかった。枠内シュートは1本もない。いくらゴールを守っても、シュートを決めなければサッカーでは永遠に勝つことはできない。
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韓国は勇敢に戦い、劣勢でも10人で守ることもなければ、決して暴力的なファウルは使わなかった。そのため、ブラジルに好きなようにされ、失点を重ねたが、この試合はそれでも構わなかった。
これは絶対に勝たなければいけないタイトルの懸かった試合ではない。かといって、ただの興行的な親善試合でもない。ワールドカップを見据えての試合だ。この時期の代表戦にはある重要な意味合いを持つ。W杯に向けての自国の問題を炙り出すためのもの、学びの場所だ。勝敗は関係ない。
韓国はそれを探って大敗した。日本はそれをカモフラージュして1失点に抑えた。
どちらが得るものが多かったか?
それは明白だろう。
韓国のベント監督は、この試合の意味を十分に理解していた。試合後に「我々は正々堂々とぶつかり、敗れた。ただし多くを学んだ。これでワールドカップに向かっていける」とコメントしている。
ちなみにブラジルもこの遠征で学ぶことがあった。出発前にはアジアツアーなど意味がないと言っていたメディアが多かった。私も少なからずそう思っていた。しかしそれは違った。ブラジルはこの2試合で時には4人のアタッカーを使うことも可能だということを学んだ。
日本だけが、臆病なプレーをしてW杯に向けて用意する大事なチャンスを失った。カタールでドイツやスペインを相手にしなければいけない日本にとって、このブラジル戦は多くのことを学べたはずだ。しかしただブラジルの創造性をつぶすことで、そうしたチームに対峙する学びを自ら放棄してしまった。その責任の多くは森保(一)監督にあると思う。
全員で守らなくて行けないのは中盤で止められないからだ。それを危険なファウルで止めようとするのはあまりにもアイデアが乏しすぎる。この試合ではたとえ負けてもいいから、それをどうしたらいいのかを探るべきだった。負けることで学ぶこともある。
日本の皆さんには申し訳ないが、今回のブラジルとの対戦は韓国のほうが一枚上手だった。
文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。