海外に媚びない“日本的”な作品を世界へ
──松本さんが監督、藤井さんが企画・プロデュースを担当されたABEMAオリジナルドラマ『透明なわたしたち』が11月21日からNetflixで世界配信されます。どのような反応を期待しますか?
松本優作氏(以下、松本):海外への配信は制作段階から共通認識としてスタッフ・キャスト全員が持っていました。僕らがオリジナルで作ったドラマを世界で見てもらえるのは嬉しいことで、どのように見ていただき、どのような感想を持っていただけるのかワクワクとドキドキがあります。
藤井道人氏(以下、藤井):僕の場合は、BABEL LABELがサイバーエージェントにグループ入りした時からNetflixでの世界配信への準備をしてきたつもりです。その流れでABEMAオリジナルドラマをリブライディングした1作目が今回の『透明なわたしたち』でした。Netflixのドラマのロジックと日本のローカルドラマのロジックには違いがあります。海外で受け入れられるドラマの内容の流行も年々変動があります。その中で『透明なわたしたち』がどのように受け入れられるのか。そのフィードバックを得ることで自分たちもどんどんアップデートしていけるのが嬉しいです。
ただ『透明なわたしたち』は、海外に媚びるのではなく日本的なものを信じて作られた作品。そんな松本優作監督の目線で撮られた作品が海外の人たちの目に留まって、何かしらのチャンスが松本監督に届いたら嬉しいです。
「配信ドラマ」という“新ジャンル”
──制作する上で配信ドラマならではの意識はありましたか?
藤井:連続ドラマ、映画、配信ドラマによってストーリーやテーマを語る際の文法は変わります。僕もNetflixで4作品を作って来ましたが、映画館に閉じ込められて見る映画とは違い、配信ドラマはどこで視聴し、どこで離脱されるのかが1番のポイントです。例えば1話の冒頭5分で離脱されてしまったら、残りの話の制作費はすべて無駄になります。いかに視聴者に完走させて最後まで見せ切るか。そのための脚本の新たな書き方、ロジックが配信用に生まれてきているような気がします。それはテレビで視聴する連続ドラマとも違う、配信ドラマならではのロジック。時代の変化や流れによって常に新しい見せ方が生まれ変化していくので、そこの嗅覚は敏感にしていこうとの心構えはありました。
松本:藤井さんのご指摘通り、配信ドラマの脚本構成や編集はテレビドラマとも映画とも違うものでした。いかに継続して見てもらうように組み立てるのか、そこが今回の作品で一番悩んだ点です。藤井さんからは世界の色々な人に見てもらうための編集のテンポについて意見をいただいたりして、配信ドラマならではの方法論を学びながら、見直して試行錯誤して、自分への反省もありつつ、刺激を受けました。改めて世界で視聴されるという点において、配信ドラマとは今までにない新しいジャンルだと実感しました。
──ドラマ制作を通して、ABEMAオリジナルドラマの利点はどこにあると思いましたか?
松本:ABEMAで配信されることの面白さは、リアル配信で視聴者からのコメントが読めるところです。脚本を書く際に観客の反応を想定しながら計算して作るところもありますが、リアル配信の際のコメントを読んでみると、意外なところで反応があったりして面白かったです。予想外の反応や感想があることで今後の学びにもなるし、逆に困惑するところもありました。僕は映画館で隣の観客の反応をチェックしながら映画を鑑賞します。今回の配信の際も、リアルタイムに反応があることで映画館と同じ感覚で楽しむことが出来ました。
脚本作りなどの企画開発に時間をかけることができたのは良かったです。近年、オリジナル作品がどんどん少なくなっている中で、原作モノではなくオリジナル作品で挑戦させて頂けたことは嬉しかったですね。 その環境作りには感謝していますし、みんなで同じゴールを目指して最後まで戦えた気がします。
藤井:元々テレビ局でも配信局でもないサイバーエージェントには、これまでにない新しいものを作ろうとする土壌があります。テレビを超えた面白い事をしたいというチャレンジ精神は創設当時から貫かれたものとしてあるので、ABEMAオリジナルドラマで面白いもの、挑戦的なものを継続して作り続けることが重要です。たとえNetflixで配信されたとしても、ABEMAオリジナルドラマという認識で見てもらえるように、ABEMAオリジナルならではの強みを見つけていきたいです。
あえて厳しい事を言わせていただくと、ABEMAオリジナルドラマというブランドは知名度の点においてまだ確立されていません。視聴者にABEMAオリジナルドラマは面白い、という認識をルーティン化させるのが課題で、そのためには宣伝の在り方も既存からかけ離れた仕掛けをしていくことも必要だと思います。
“配信時代”に乗り遅れた日本の映像コンテンツ業界の課題
──お二人はクリエイターとしていつ頃から世界を意識されていましたか?
藤井:僕が意識したのは20代の頃からで、映画言語という言葉があるように、映画は言語を越えるものだと信じてやってきました。かつては世界の人に作品を見てもらうためには、海外の映画祭に出すという道しかチャンスはありませんでした。
松本:僕が海外を意識したのは、20代前半で初めて映画を撮って海外の映画祭に持って行った時です。国境を超えて色々な人たちに自分の監督作を見てもらって、海外の観客と会話した経験はかなり大きいです。
──今では配信プラットフォームの拡大によって、日本で作ったものを配信動画として世界に伝えることができます。この現状をどう思われますか。
藤井:海外の人たちに日本文化を知ってもらい、興味を持ってもらうためにも世界配信は有効な手段で、『SHOGUN 将軍』はまさにその好例です。一方で、海外作品には面白いものが多いので、そこにどうやって日本作品が食い込んでいけるのか。韓国はそこを上手くやっていますが、日本は発展途上です。アジア諸国の言うローカルコアと日本が掲げているローカルコアには違いがあって、日本の作品は日本による日本のためのコンテンツがほとんどです。しかしアジア圏の国々の映画人たちは自国以外でヒットさせる方法を20年程前から戦略的にやっていました。僕たちは黒船として配信の波が来たり、コロナ禍があったりしてやっとそこを再考し始めたばかり。配信時代に乗り遅れている感は否めません。
松本:世界配信が当たり前になりつつある現在は、僕も世界との差を痛感することが多いです。作り手の意識もそうですが、俳優の意識も日本と海外では違う気がします。韓国でいうと、アカデミックに勉強されている俳優も多く、芝居のレベルも世界標準に高めていこうという意識が強い。そこも日本が世界で勝負する際の課題だと感じます。
──世界配信が当たり前の現在において、クリエイターとしてどのようなマインドで作品と向き合っていきますか?
藤井:映画人としては映画ときちんと向き合い、映画館で映画を観るメリットを考えて生み出していきたいです。良質な配信コンテンツが増える中で、配信に対してマイナス点を探すことの方が今は難しいですが、映画がすぐに配信プラットフォームで視聴出来てしまう時代に、どのように映画に特別感を与えて映画館に足を運んでもらうのか。映画を監督し、配信作品にも関わる身としては日々そのバランスを考えています。
松本:僕自身は、どうしていけばいいのだろうか?と悩んでいる側です。でも自分が物語を撮るモチベーションは昔から変わりません。『透明なわたしたち』のテーマにも繋がるものですが、情報化社会の中で埋もれてしまった大切な何かに光を当てたい。それを描いて皆さんに見ていただき、議論を通して考えてもらいたい。それはフォーマット・作品の大小に関係なく共通する思いなので、作り続けて試行錯誤していきたいです。
『透明なわたしたち』https://abema.tv/video/title/90-2002
ABEMAオリジナルドラマ。ABEMAで全話配信中。 11月21日(木)よりNetflixで世界配信を開始するなど、グローバル展開を意識した作品となっている。
◆藤井道人氏
1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。
大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。
伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)でデビュー。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。
◆松本優作氏
1992年生まれ、兵庫県出身。
ビジュアルアーツ専門学校大阪に入学し映画制作を始める。19年に自主映画『Noise ノイズ』で長編映画デビューを果たすと、多数の海外映画祭に正式招待され、国内外のメディアから高く評価される。
22年『ぜんぶ、ボクのせい』で商業映画デビューし、続く23年公開の映画「Winny」は大ヒットロングランを記録。
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