「Twitterでグチりたいだけなら“匿名社畜”でいいのでは」急増する“匿名記者アカウント”は卑怯者? 新聞業界の未来を憂う気持ちも…
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 新聞記者を名乗り、匿名でTwitterに投稿を続ける“匿名記者アカウント”が急増、“コミュニティ化”している。

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 匿名記者アカウントの一つ、「編集記者A子」(@e_i_k_)を運用している記者は「“パワハラを受けていて、誰でもいいから話を聞いてほしい”という記者がいた。私が話を聞いたことで、“気持ちがちょっと軽くなった”と言っていた」と話す。その一方、「政治家は言葉が大事!終わってる!もう辞めてほしい。XXさん国会議員の資格なし」等、激しい言葉で他者を批判する匿名記者アカウントも存在している。

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 日頃“書かれる”側にいるロンドンブーツ1号2号の田村淳@atsushilonboo)は「裏アカ、匿名アカ、みたいなのはあっていいと思っている。ただ、取材をして人々の真実を伝える記者さんというのは特別な仕事だと思うし、書かれる側の人間としては署名で記事を書いてほしいと思っているので、Twitterでも匿名のまま記者を名乗るのは解せない」と苦言を呈する。

 こうした意見について、現役の“匿名記者アカウント”はどう感じているのだろうか。

■「マスコミは斜陽産業」「実名では会社の悪口なんて吐けない」

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 「マスコミぺんぎん」(@mass_pen)としてツイートを始めて2年になる鈴木さん(仮名、30代前半)は、全国紙の記者歴13年。“匿名記者”として投稿を続けているのは、業界の後輩たちへの思いがあるからだ。

 「職人的な仕事ということもあって、良い意味でも悪い意味でも駆け出しの頃に出会った先輩の存在は大きい。私の場合は良い先輩に恵まれたが、誰にも悩みを相談できずに抱えてしまっている若手もいる。そういうところに対して何か還元できることはないかなと考えて、自分が先輩に教えてもらった取材のコツと、職場に馴染む方法などを書くようにしている」。

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 とはいえ、匿名記者アカウントに対しては様々な批判もある。“実名記者”の朝日新聞・藤えりか記者は「卑怯ではないか」とも主張している。鈴木さんは「そんなこと言われてもなあ…。確かに匿名記者の中には攻撃的な発言をする人がいるのも事実だ。でも、実名記者であってもそういう人はいるし、僕はやっていない」とコメント。

 「夜回りが辛いとか、“訂正”を出しちゃって大変、など、業界特有の悩みがある。それは大学時代の友人などに話しても伝わるものではないので、“匿名記者”という緩いつながりがすごく温かい。正直なことを言えば、実名でやりたいと思っているし、以前は実名のアカウントも持っていた。

 でも、例えば報道のあり方に疑問を投げかけるようなかっこいいツイートをすると、“XX新聞のくせに生意気だ”というレッテル貼りの指摘が飛んでくる。ネットでケンカするわけにはいかないしメリットとデメリットが釣り合わなくてやめてしまった。また、ご存じのようにマスコミは斜陽産業。皆が漠然とした不安、不満を抱えているが、実名では会社の悪口なんて吐けない」。

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 「署名付きの記事を出したいという気持ちはある」という鈴木さん。また、フォロワーが増えるのは“業界ネタ”よりも“ほんわか系”のツイートをした時の方が多いようで、「チヤホヤされたい」と、複雑な心境も覗かせる。「例えばラーメンに関するツイートだ。それによってバレたとしても大丈夫なように心がけてはいる」。

■「“斜陽産業だ”などと投稿するのは、天に唾を吐くような行為だ」

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 一方、「モラトリアム記者の独り言」(@userajik)こと高橋さん(仮名、20代前半)は地方紙に勤務する2年目の記者だ。アカウントを開設したのは、「等身大を伝えたい」と考えたからだという。

 「私自身が“コロナ入社世代”なので、同業他社の方々とコミュニケーションをする機会が少なかった。そこからTwitterで出会った匿名記者の方に先輩に相談しづらいことを聞いてもらうようになり、“悩んでいるのは自分だけではないんだ”ということが分かった。一方で、匿名記者たちのアカウントを見ていて、業界の暗い部分ばかりを呟いている印象が強かった。

 確かに辛いこともあるが、楽しいこともある。そこで記者としては“ペーペー”だが、業界を目指す学生向けの作文や面接のアドバイス、人の紹介など、就職活動のお手伝いができたらと思い、始めることにした。実際に内定をもらった学生も出てきているし、毎月作っている各紙の公式アカウントのフォロワー数ランキングについて“プレゼンで使わせてほしい”と連絡が来たこともある」。

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 高橋さんもまた、「こういう取り組みをやるのであれば実名の方がいいと思っている」という立場だ。

 「私も同業他社の人にもバレつつあるが、会社から実名ではTwitterをやってはいけないと言われている以上は匿名で続けるしかない。だからこそ、ケンカにならないようリプライには返信しないなどの個人的なルールを設けて運用している。2年目が言うのはおこがましいが、匿名で“俺たちは斜陽産業だ”などと投稿するのは、天に唾を吐くような行為だと思うし、もし私が適当なことを投稿すれば、それが業界全体のイメージダウンに繋がりかねないと思うからだ。しかし本当に情けないことに、記者を名乗って他人を傷つけたり貶めたりするアカウントもある」。

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 2人の話を受け、実名でアカウントを運用しているテレビ朝日平石直之アナウンサー(@naohiraishi)は「私もTwitterでは議論しない」とコメント、「言論系の雑誌で大手紙の記者がペンネームで記事を書くということは今も行われているし、最近も『文藝春秋』に“NHK有志一同”という形で寄稿が掲載されたことがあった。業界や、場合によっては自社の闇を告発しようとする場合は匿名も意味を持つと思う」。

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 “テレビ朝日公式”の形でInstagramを運用している田中萌アナウンサー(moetanaka_ex)は「“元女子アナ”を名乗る匿名Twitterアカウントを覗くことがあるが(笑)、就活生に向けたアドバイスなどを見ていると、同業の人なのではないかと信じてしまう内容を投稿している(笑)。私の場合は公式でやっているので“この表現はやめよう”“これを載せるのはやめよう”といった気持ちが働くし、匿名でゆるゆる呟きたいという気持ちは分かる」と明かした。

■「“気付かれているだろうな”くらいの気持ちでやった方がいい」

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 元朝日新聞記者で、J-CASTニュース在職中には匿名記者アカウントだったという亀松太郎氏(@kamematsu)は「昔から匿名記者アカウントはあって、業界の内部情報をウォッチする意味で非常に参考になっていた。それが最近では2人のようにコミュニティ化してきているのが特徴的だと感じている。コロナの影響でリアルでは会えない、つながりたいという思いがそうさせているのではないか」と分析する。

 「新聞記者の中には実名でやろうとしたけれど会社に潰され、やむにやまれず匿名記者アカウントになっている人もいると思う。僕の場合は会社に断らずに始めたので匿名でやっていたが、愚痴を書いてどんどん先鋭的になっていることに気づき、これはバレたときにまずいぞと思って実名に切り替えた。そもそも総務省の『情報通信白書』によれば、日本でTwitterを実名で使っている人は2割しかいない。むしろ匿名が当たり前だということだし、気をつけるべき点は気を付けるべき、というのが基本ではないか」。

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 また、東洋経済新報社の山田俊浩・会社四季報センター長(@T0shi_Yamada)は「トラブルが起きた場合に炎上してしまうリスクがあると、会社側が守りに入ってしまっているのだと思う。他方で辞める記者に対して“アカウントを返せ”と言って話題になった新聞社もある。つまり自分たちのPVを伸ばすためのツールとして、記者アカウントをビジネスに使い始めている側面もあるわけだ。

 出版社の場合、ガイドラインを設けるなどした上で編集者が実名アカウントを作ることを許しているケースが多いと思うし、競合他社でプロモーションが上手いアカウント、人気のアカウントは皆が学ぼうとしているくらいだ。こうした状況に対して2人は息苦しさを感じているのだと思う。ただし気を付けて欲しいのは、バレないと思っていてもバレてしまうことがあるということだ。“周りの人にはもう気付かれているだろうな”くらいの気持ちでやった方がいいし、高橋さんには“ほんわか系”で続けてほしい(笑)」。

■「グチりたいだけなら、“新聞社社畜”“新聞社リーマン”でいい」

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 オンラインサロン『田端大学』塾長で、LINE社やZOZO社の執行役員時代にはツイートが“炎上”したことでも知られる田端信太郎氏(@tabbata)は「僕の場合はツイートが炎上してカスタマーセンターにクレームがきたり、株主総会で質問されたりしてしまったが、亀松さんと同様、匿名でやっていたらもっとどす黒い部分が出ていたかもしれないと思う。その意味では、実名は“最後の矜持”だ。逆に本物の記者さんたちが匿名で愚痴をこぼしているだけならいいが、なりすまして誰かを攻撃したり、偽情報を上げまくったりすることも可能だ。自分たちは斜陽産業だと言っているうちに、新聞に残っている最後の信頼性のようなものが一瞬で失われる可能性だってあると思う」と警鐘を鳴らす。

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 「4月に独立された元日経新聞記者の後藤達也さん(@goto_finance)の場合、新しく立ち上げたTwitterアカウントのフォロワーがすぐに30万人に達した。記者の皆さんには、後藤さんのようなスターを目指してほしいと思う。あるいはガーシー(東谷義和氏、@GaaSyy_ch)も、実名・顔出しで体を張っている感じがするから、“ウソかもしれないけど聞いてみようや”という気持ちになるんだと思う。

 そもそも記者が記事を書くのは、世の中を良くしたいとか、皆が知るべきことを知らせたい、という思いからではないか。そこにもっとプライドを持ってほしいが、日本の新聞記者たちは記者である前にサラリーマンだ。Twitterでグチりたいだけなら、“新聞社社畜”“新聞社リーマン”といった呼称でいいのではないか」。(『ABEMA Prime』より)

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