「『読者の年齢層にそぐわない内容が掲載されているのではないか』等のご指摘をいただきました」(『ニコ☆プチ』HPより)
4日、ホームページに謝罪文を掲載した小学生向けファッション誌『ニコ☆プチ』(新潮社)。母と娘が一緒に楽しめるとうたっている同誌だが、付録漫画に掲載された“ある表現”に保護者から怒りの声があがった。
きっかけは、先月発売の8月号の付録漫画『溺愛ロワイヤル』。14歳のヒロインと3人のイケメン婚約者による逆ハーレムラブコメディだが、その中で嫌がるヒロインが押し倒され、キスを迫られるシーンが描かれた。
このシーンに保護者などから「小学生に何見せてんの!?」「これはアウト」といった声が殺到。中には「雑誌を子どもに渡す前に内容を検品した」という保護者もいた。
性教育や育児情報をメディアやSNSで発信している産婦人科専門医の稲葉可奈子氏は「問題は2段階ある」と話す。
「1つは性的同意だ。まず、完全に嫌と言っているのに『女の子は押し倒されることがかわいい』的な雰囲気が問題だ。誤った価値観を刷り込んでしまうと思う。次のページで別の男の子が助けに来たが『誰かが助けてくれれば性的同意を無視していい』という話ではない。2つ目は、今回のような性的描写を小学生向けの雑誌に載せていいかどうかだ」
もし、性知識がない子どもが不適切なシーンを見てしまった場合、親はどのように対応するべきなのか。稲葉氏は「隠すのではなく、それをもとに気をつけるべきことを教えてほしい」と話す。
「子どもの発達、発育にはかなり個体差がある。例えば『小学一年生でひらがなを教える』といったように、性教育は画一的ではない。子どもの成長段階を知って、フレキシブルに親子間で話をする材料にしてほしい。親の“検品”自体は悪くない。隠す、見せないのではなく、子どもがどのようなものを見て興味を持つか、ある程度把握してほしい」
『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社新書)の著書で、漫画分野に詳しいライター・飯田一史氏は「今の小学生向けの漫画・小説において、過激な性的表現ほとんどない。たいていキスまでしか描かれない」と話す。
「2000年代に小学館の『Sho-Comi』という女子中高生向けの漫画雑誌で『性描写が過激だ』と当時、非常に問題になった。以降、特に対象年齢が下がるほど、各編集部がセンシティブにやってきた。そもそも、今の読者にオラオラ系男子はウケないので、需要がない。性的同意なしで何かをすること自体がウケていない」
該当のシーンについて、飯田氏は「プロットの部分を読んでも、性行為どころかキスすらしていない。勢いで押し倒しはするが、他キャラクターに阻止されている。切り取られた部分だけを読むと分からないが、女の子は魔王の娘で、男子3人は婚約者候補。女の子が自らの意思でほっぺやおでこにキスするシーンは、コミックス1巻目からある。無理やりは当然よくないが、我慢できない男の子が抱きついてきたりすると女の子が『駄目だよ』と言ったり、今回のように邪魔が入ったりする。『同意なしはダメ』と毎回読者に丁寧にアナウンスしていると思う」と話す。
その上で、飯田氏は「もし問題があるなら、そもそもの設定である“2人の関係性”が、付録に収録されている部分だけ読むと抜け落ちている。だから、すごく一方的に押し倒されているように読める。あとは、台詞で『エッチ』と連発しているところだ。他の回を読むと『溺愛ロワイヤル』は、エッチな気持ち自体にそれほどフォーカスしていない。普通の恋愛だ。なぜ付録でこの回を選んでしまったのか、もう少し配慮があったほうがよかったと思う」と述べた。
ニュース番組「ABEMA Prime」の取材に対し、ニコ☆プチ編集部は「ファンタジーをベースにしたストーリー全般や前後の文脈を総合的に評価したところ、直ちに掲載自粛を判断すべき様な表現ではないと考えた」とコメント。「しかし、内容の一部にご不快な思いをした読者、保護者がいらっしゃったことを重く受け止めております」とした上で「より一層注意深く、読者と向き合うよう努力を重ねてまいります」と話している。
飯田氏はILA(国際識字連合)が提唱している子どもの「読む権利」に言及。「親や大人が干渉するのは、人権の侵害だ。そういう観点があまり日本にない。今回の騒動でも与えるべきか、大人がどのようにコントロールするかが問題になっているが、子ども側からすると読む権利を侵害していると思う。子どもには本を選んで好きに読む権利がある」と述べる。
制度アナリストの宇佐美典也氏は「そもそも、漫画はいけないことが描かれているという前提がある」と指摘する。
「僕らが小さい頃は少年ジャンプで『電影少女』という漫画が連載していて『なんかエロいよな』と言いながら読んでいた。それに関して別に親にどうこう言われたことはないし、こういうものだと思う。もし、僕の娘が『溺愛ロワイヤル』を読んでいたら『こういうことを言う男は他のやつにも言っているから、やめとけよ』と言うくらいだ。共産主義社会ではないから、正しいものばかりを与える必要はない。これを題材にユニークに話せるような余裕が家庭にないと、その家は逆にヤバいのではないか」
(「ABEMA Prime」より)
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