その頭の中は、一体どうなっているのか…。そんな疑問すら沸く反応スピードだ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Eリーグ第3試合、チーム藤井とチーム渡辺の対戦が7月22日に放送された。個人戦だった第1回大会から大活躍する藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、21)は昨年こそ予選敗退したが、今年は絶好調。チーム千田戦で3戦全勝すると、チーム渡辺戦でも2戦2勝。予選無敗の5連勝と無双状態だ。研究の深さから力戦になってからの判断も早く隙のなさが際立ったが、タイトル31期の実力者・渡辺明九段(39)が舌を巻いたのは、記憶を引き出す反応速度。「思考回路が人の10倍で動いている」とまで表現した。
今や多くの棋士が将棋ソフト(AI)を用いて序盤から研究を重ね、より広く、より深く知識を増やしている。両者がよく知る最新型ともなれば、長時間の持ち時間がある公式戦でも、数十手までほぼ時間を使うことなく指し進められることも珍しくない。ただし、いくら脳内に叩き込んだとしても、その記憶を正確に引き出すにはそれなりの時間がかかる。研究の精度が高まるほど、間違った記憶を引っ張り出した時には、目も当てられない惨敗が待っているからだ。
チーム藤井がスコア4-0と大きくリードして迎えた第5局。藤井竜王・名人はストレート勝ちを決めるべく出場すると、相手は第3局でも戦った新A級棋士・佐々木勇気八段(28)になった。佐々木八段の先手番で始まった一局は、藤井竜王・名人をはじめ多くの居飛車党が好んで指す人気戦法「角換わり」に。人気ゆえにどの棋士もかなり深くまで研究が進んでいることでも有名だ。
すると佐々木八段は、少しでも藤井竜王・名人のペースを乱そうと考えたか、27手目に、工夫を入れた▲5八玉を選択した。ところがこのわずか4秒後、藤井竜王・名人はすっと△4四歩と指した。この光景を見逃さなかったのが、数々のタイトル戦でぶつかり藤井竜王・名人の実力を痛いほどよく知る渡辺九段だ。
渡辺九段 こういう(▲5八玉)のも、すぐリアクションされちゃうんだね。普通だったら「ちょっとなんだっけ」みたいにちょっと固まってほしい。どうやって引き出せるのかね。
序盤とはいえ、指し間違えればいきなり形勢を損ねるケースもある中で、さほど考えた様子もなく対応していることに驚きが隠せなかった。
渡辺九段 こんな珍しい戦型で「ピッ」と(記憶を)引き出せるかね。そこの思考回路、普通の人の10倍ぐらいで動いている可能性があるよね。思い出すのに数十秒、考えちゃわない?
話を聞いていた後輩の岡部怜央四段(24)もうなずくばかり。超早指し戦だからこそ、少しでも悩ましい手を選んで形勢だけでなく持ち時間でも有利に持っていこうとするところ、瞬時にスパンと返されては、むしろ工夫を入れた方が詰まってしまう。指し手の中身ではなく、反応速度でプレッシャーをかけられてしまったシーンだ。
これにはファンからも「聡太の記憶力エグいんだよなぁ」「積んでるエンジン違うんで」「興味深い考察」「なべさんが聡太の強さ一番肌で感じてる」「やっぱナベも認めてるんだな」と渡辺九段の指摘について同様の感想を持ったコメントが多く見られた。対局は、終盤にペースを握った藤井竜王・名人が快勝を収めて、チームも5-0のストレート勝利。将棋界の頂点に立つ棋士の様々な強さが際立つ試合となった。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)