日本の野球界が抱える大きな悩み「野球離れ」。30万人以上いた競技人口も、2009年を境に下落が続き、今では約13万人にまで減少している。全国の部活では野球部より卓球部の方が多いというデータもある。こうした状況を食い止めるべく、全国でさまざまな取り組みが行われている。
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新たに岡山県で誕生した中学野球のチームは、失敗しても「褒めて伸ばす」が基本方針だ。休む際に理由を告げる必要が無く、出欠連絡もアプリでOK。保護者の「お茶当番」や、試合の送迎・引率当番もない。「楽しさ重視」のトレンドに沿った考え方だが、一部には「勝つため、上達するために努力するから意味があるのでは?」という声も。
『ABEMA Prime』では、少年野球の現役コーチらと、深刻化する“野球離れ”について考えた。
■13年間で約1200チームが減少「子どもの体から野球が抜けている」
少年野球リーグ「ジュニアベースボールリーグ愛知」の参加チーム数は、2010年の1861から、2015年には1083、2023年には598に。13年間で約1200チームが減少した。
同リーグの事務局長で、学童野球チーム「守山ボーイズ」で40年以上指導している山本次雄氏は、2010年までは「右肩上がり」だったと振り返る。一方で「必ずしも同じペースで野球少年が減っているわけではない」とも語る。
スポーツライターの広尾晃氏は、「子どもの体から野球が抜けている」との現状認識を示す。「昭和の登下校時には、野球選手のマネをする子どもが必ずいた。下手でもいいから、遊んでくれる人を増やす必要がある。東京六大学野球は、今年からグラウンドを“遊び場”として開放した。“野球離れ”は競技以前のレベルの問題ではないか」。
■怒る指導が選ばれないのは明らか?! 「褒めたほうが伸びる」
指導方針の変化を比べてみると、過去はミスを叱って反省と練習を重ね、監督優先で連帯責任となる体制だった。しかし現在は、失敗しても怒らず褒めるようになり、個人を尊重した子ども主体となっている。
「守山ボーイズ」ヘッドコーチの小森達也氏は、「いかに練習を有意義に過ごし、さらに試合に勝って喜びを味わうかを基本に指導している」と語る。「YouTubeなどで練習法を学べるため、技術面では昔より格段にうまいが、怒られ慣れていない部分はある。少年野球は子どもの大事な時期を預かっている。叱るより褒めた方が伸びるが、礼儀がしっかりしない子には怒る」。
広尾氏は「“怒る”“怒らない”の話は結論が出ている」とし、「怒る高齢指導者には、選手が集まらない。子どもが怒鳴られているのを目の当たりにすると、母親が嫌がって『サッカーに行きなさい』となることが多々ある」と説明した。
笹川スポーツ財団の調べによると、スポーツ活動している子の母親は、指導者や保護者の送迎をする(66.7%)、練習や大会等で指導者・保護者の食事や飲み物を用意する(64.4%)、大会用面でも、道具代が約7万円、ユニフォーム代が約2万円、活動費が約3万5000円で計12万5000円が必要となる。
加えて、野球離れの要因として「時間的拘束が大きい」ことがある。広尾氏は「グラウンドは近所にあるとは限らず、車の送迎が出てくる。『お茶当番』は消えつつあるが、遠征には父母が送る必要がある。最近では中学生からプロテインを飲んでいて、その費用もバカにならない」とした。
■野球少女が増加中?NPBガールズトーナメントの狙いは
野球離れが進む一方で、注目されているのが「野球少女」の増加だ。2013年に発足したNPBガールズトーナメントは、少年野球で出場機会がない女子学童のために立ち上げられた。チーム数は2013年の30から、2023年には46に増加。日本女子野球界のレベルアップが競技者人口の増大につながると期待されている。
山本氏は「地元の愛知県でも、女子が増えている。感覚として相当増えていて、NPB(日本野球機構)がトーナメントを始めた狙いは当たっている」と指摘する。
広尾氏によると、「ソフトボールをやっている女子の多くが、潜在的に野球をやりたい。イチローや大谷翔平が好きで、少年野球に入っても、年を重ねるごとに段々とできなくなる。ソフトボールが“野球の代替品”のような感覚の女性は結構いる。ソフトボールの女子人口が減っていて、野球が食っている状態だ」。
■業界全体の“稼ぐ力”上げるには
元デジタル副大臣の小林史明衆院議員は、「野球界は自分たちの首を縛っている」との見解を示す。「甲子園はいいコンテンツなのに、潔癖すぎて“体育”から抜け出せていない。アメリカの大学バスケットボールのように、スポンサーや放映権で稼げないのか。稼いだお金で、練習環境を整えるなど、経済を回した方がいい」。
この指摘に広尾氏は「高校野球はクラウドファンディングをやってもダメだった。お金もうけする仕組みがない。高校野球連盟にも問題意識を持つ人はいるが、上層部に“お年寄り”が多く理解されない。いまなお連絡を取るのはFAXで、メールをしていない所も多く、絶望的に感じる」という。
桜美林大学健康福祉学群・小林至教授によれば、1995年にNPBが約900億円、MLB(米メジャーリーグ)が約1500億円だったプロ野球の市場規模は、2019年にNPBが2倍(約1800億円)、MLBが10倍(約1.5兆円)となった。
広尾氏は「MLBはコミッショナーがトップセールスしている」と、成長の差を解説する。「MLB全体の放映権を巨大メディアに渡す。一方のNPBは12球団が個別で稼ぐ。サッカーはJリーグとしてチームがまとまったことで、DAZNと10年で2000億円の契約ができた。NPBは1球団ごとに年間5億円といった商売で、差が埋まらない」。
世界のスポーツ競技人口を見ると、バレーボール約5億人、バスケットボール約4億5000万人、卓球3億人以上、クリケット約3億人、サッカー約2億6000万人……となっているが、野球は約3500万人だ。
裏を返すと、「野球をやっていない地域は、マーケットとして有効」でもある。広尾氏は「WBCでチェコが活躍した。ヨーロッパの野球人口は少ないが、すごく盛り上がっている。去年12月に沖縄で開催した“ジャパンウインターリーグ”には、8カ国から集まった。NPBを目指す外国人は多くいて、可能性もある。ただ、セールスを広げる人が日本にあまりいない」と指摘した。(『ABEMA Prime』より)
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