2022年4 月、観光船「KAZU Ⅰ」が沈没
2022年4月、北海道・知床沖で乗客乗員26人を乗せた観光船が沈没した。乗客家族の男性は、行方不明の7歳の息子が法的に亡くなったものとする「認定死亡」の手続きをした。運航会社と社長に損害賠償を求める集団提訴の原告になるには「遺族」になる必要があるためだ。
一方、国の指示により、小型船の検査は厳格化された。しかし、全国の事業者に向けたアンケートでは、検査への対応が重い負担となり運営を圧迫している実態が明らかになった。事故から2年半以上が経過したが、波紋は広がり続けている。
■事故から2年半、被害者家族は「遺族」へ
知床の観光船
北海道・知床の小型観光船業者「ドルフィン」は、20 年続けてきた商売から手を引いた。世界自然遺産・知床の絶景を間近に見てもらう観光船で、夏場の観光シーズンの営業では売り上げが6000万円に上る年もあった。しかし、“あの事故”で変わってしまった。
2022年4月に観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し、知床沖で乗客乗員26人のうち20人が死亡。いまも、6人が行方不明のままだ。
運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長は、いまも知床に住んでいるが、事故直後の記者会見以降、公の場で事故について語ることはない。桂田社長の会社は、ずさんな安全管理体制が問題視され、事故の2か月後に国から事業許可を取り消された。
かつて4社が出していた小型観光船も運航数は激減。安全への信頼を取り戻すことができず、苦境に追い込まれている状況だ。
そしてあの日、7歳の男の子と母親が2人で沈んだ船に乗っていた。2人は、いまも行方不明のままだ。父親は追悼式に参加できないでいる。
「自分の気持ち的には、帰りを待っていたいという気持ちが強いので。やはり(追悼式に)参加はできないなという気持ちがあります。(2人に会えたら)抱きしめてあげたいですね」(息子とその母親が行方不明・帯広市の男性)
そんな中、父親は苦渋の決断をした。法律上、息子が亡くなったこととする「認定死亡」の手続きを行うことだ。「いざ書類に息子の名前を書くときはつらくて、涙が止まらなくて。すぐにその場から逃げ出したくなって、急いで書いて役場を出ました」。
家族を失った人たちが損害賠償を求める裁判に加わるには、「遺族」になる必要があるためだ。「自分のやったことを認めて、きちんと責任を取ってほしい。言い逃ればかりして逃げていないで責任を取る。それが本当に反省しているということだと思います」。
経営計画書
桂田社長の会社の「経営計画書」からは、不可解な一面が見えてきた。「社外秘」と書かれた、黒革の手帳。その中身は、接客の正しい姿勢からはじまり、桂田社長から従業員への直筆メッセージも書かれている。
経営方針に掲げられているのは「お客様第一主義」。そして、「安全第一」。トラブルが起きた時の対処法については、「あやまり倒す。解決するまで何度も足を運ぶ」と書かれていた。しかし「安全第一」は守られず、あの日、観光船「KAZUⅠ」は単独で海に出た。
■同業者と救助現場の後悔


