ダライ・ラマの“謎”をひもとくには、まず「輪廻転生」について知る必要がある。チベット仏教において、高僧にあたる人物たちは、それぞれ神の化身として転生を繰り返す。これを「活仏(かつぶつ)」と言う。
平野教授は「活仏という存在は、普通の人の輪廻、生まれ変わりとは違う。あくまで強い願いを発して、自分の意思で生まれ変わろうとする存在だ。だから『次はどこに生まれ変わるのか』といった発言、とりわけ遺言は非常に大きな意味を持つ」と説明する。
ダライ・ラマ14世の時には、先代の13世が北東の方角を伝え残したそうだ。「次に占いによって、大まかにどこに生まれるかの目星を付ける。雪山の中にある湖、このほとりで占いをすると、生まれ変わった場所の景色や、地名のヒントになるような文字が湖面に浮かび上がるそうだ」(平野教授)。
ダライ・ラマ14世の場合、湖に「Ah」「Ka」「Ma」のチベット文字が浮かび上がったという。「中国政府は、活仏を選ぶ手続きを常に監視下に置いて、さまざまな儀式に必ず、共産党員の官僚を送って監視している。しかし、実際に湖面にイメージが浮かんだと驚いている人がいるようだ」。
これらの情報をもとに、探索隊が目星を付けた村々で、徹底的に聞き込みをして探す。そして見つけた子どもに、先代の持ち物と偽物を混ぜて見せ、当てられるか試すそうだ。「14世自身が、非常に賢い子どもとして見いだされ、とりわけ13世の遺品はぴたっと当ててみせたと言われている」と、平野教授は説明する。
現在の青海省に生まれたダライ・ラマ14世は1935年、2歳で生まれ変わりと認定され、1940年に即位した。「14世は今、チベットにはいない。インドの山岳地域で長年、亡命生活を強いられた状態になっている」。
チベット問題の背景
