■「ワケあり住人」たちの更生支援
元受刑者の相談にのる西村
西村の活動の拠点となっているこのロアビルでは、元暴力団組員や元受刑者など様々な事情を抱えた「ワケあり住人」たちが社会復帰を目指し、生活を送っている。
住人の一人であるサナダ(仮名・75)は、組の命令で現金輸送車の襲撃や殺人などを犯し、刑務所生活は37年間。2023年暮れに出所したものの、帰る場所はなかった。
「(組は)いまはもう解散してありません。長いこと(刑期を)務めて、高齢になってから出てきてこれからどうするってどうしようもないもんね。人生終わるまで何とかこのまま行くかなって感じ」(サナダ)
しかし、現実は一筋縄にはいかない。時に住民たちは、突拍子もない騒動も巻き起こす。元受刑者のユウジ(59)とトラブルになった薬物中毒の知人が、部屋から本人をおびき出すために、「中から爆発音がした」とウソの通報をしたのだ。結局、部屋には誰もおらず、通報した知人も行方をくらませた。
翌日、西村は管理人とともにユウジの「安否確認」へと向かう。しかし、室内はひどく荒れていた。部屋中をかき分けても、そこにユウジの姿はなかった。ところが、この1週間後、ユウジがロアビルに帰ってきたとの連絡が突然入ってきたのだ。
「どこ行っとったの?」(西村)
「はい・・」(ユウジ) 思わず、ユウジの頭をぺちっと叩く西村。
かつて暴力団に所属していたユウジ。薬物事件で3回も服役を繰り返してきた。過去の縁を絶ち切るため、会に加わったばかりだった。
「これから頑張ってね、どこも行かんように。ユウジ君がおらんくなると、岐阜の清掃活動が不便。最後のごみ掃除する人がおらへんで。役に立っとる。岐阜支局には必要な人間なんでおってください」(西村)
「はい、わかりました」(ユウジ)
何度も、うなずくように頭を下げるユウジ。西村のさりげない一言が、ユウジの心を揺さぶった。
その1か月後。家屋解体の工事現場で額に汗するユウジの姿があった。あの一件以来、騒動を起こした知人とも縁を絶ち切り、仕事にもほぼ毎日顔を見せるようになった。仕事終わりの一杯、このささやかな楽しみが、ユウジを薬物から遠ざけていた。
清掃ボランティアの取り組み
