凌久さんがマスボクシングを選択した理由は、目の難病である「網膜色素変性症」のためだ。顔にパンチが当たると失明する恐れがあるので、通常のボクシングをやることは母・智美さんが強く反対した。
「グローブを使って殴り合うことで、お母さんから『目、大丈夫なのか』『スパーリングはやめたほうがいいんじゃないか』という意見はありました」(凌久さん)
凌久さんの母・智美さんは、愛知県岡崎市にある駄菓子店で働いている。20歳のときに網膜色素変性症を発症し、両目が見えない。
「昔のテレビというか砂嵐のようにぶわーっと、ぐにゃぐにゃって動いている感じ。それがぐにゃぐにゃってなっているときもあるし、何もなくてまっさらな白というかグレーというか、そんな見え方」(智美さん)
網膜色素変性症は、遺伝する可能性がある目の難病。智美さんは、凌久さんの目が今よりも悪くなることを心配している。
「いつなんどきどうなるかわからないから、その可能性をつぶしたくはないんですよね。見えている可能性を」(智美さん)
凌久さんは、マスボクシングのことを自分で調べて知った。ボクシング部の顧問に、それまではしていなかったマスボクシングの練習を加えてほしいと頼んだ。4年前に、公式競技になり、大会も行われている。
「石川自身もそれに参加したいという強い気持ちがあったので、マスボクシングに参加することになりました。いろいろな葛藤の中でやりたいということがあって、なんとかこの場にいるだけでも嬉しく感じてくれていると思う。その上で自分ができることを精一杯やろうとしているんじゃないかなと思う」(顧問・冨田先生)
部員から見た凌久さんとは。「一番勉強ができる感じのイメージ」「いつもふざけてる感じ、ふざけてます(笑)」といった声があった。
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