展覧会場で開かれたギャラリートーク。千田さんは、川田さんが亡くなった後、部屋を片付けていた際に見つけた手記を紹介した。地元老人会の冊子に寄せた「はたちの思い出」。描いたのは、絵筆を握る前の67歳の時。最後はこう締められていた。

「もう戦争は二度と繰り返すことはあるまい。私達が感じただけでなく、自分達の大切な子供たちにも、またこれから生まれる幼い命のためにも、私達戦争を体験したものの祈りであり、責任であるとつくづく感じている」(「はたちの思い出」より)

世界の中から言ったら、戦争いうんは絶え間なく繰り返されていきよる。もう絶対に戦争にしてはいけん」(生前の川田さん)

 会場には、演劇に参加する大学生2人の姿もあった。川田さんをモデルとした役を演じる池内怜士さんは「僕みたいにシベリア抑留のことを知らなかった人に考えるきっかけを作ることが、一番大きな役目なのかなと改めて思う」と話す。父親がシベリア抑留の記憶を短歌に残した西岡秀子さんをモデルとした役を演じる原麻名実さんは「直接聞いたわけでもないし体験したわけでもないけど、表現者として舞台に立つということは、語る側としての立場になるということ」と語る。

 戦後80年。戦争を体験した人から直接話を聞くことが難しい時代を迎えている。それでも、バトンは確実に、つながっていく──。

(瀬戸内海放送制作 テレメンタリー『シリーズ戦後80年 沈黙と絵筆~シベリア抑留の記憶~』より)

この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(7枚)