■再審規定の不備と捜査適正化への教訓

【写真・画像】「トイレさえも行かせず、水をも飲ませず、耳や髪を掴んでは小突き回した」袴田巖さんを襲った“拷問”…後遺症は今も 取り調べには“拷問王”と呼ばれた刑事の部下も関与 5枚目
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小川秀世弁護士

 再審で巖さんに無罪を言い渡した静岡地裁の國井恒志裁判長は、高校生に袴田事件の話をした。「証拠、カラー写真が検察官から弁護人に示されるのが遅かった。その証拠というのはただあればいいというんじゃなくて証拠をじっくり分析しないといけないので、証拠を手に入れる時間と証拠を分析する時間が結構かかった」。

 証拠開示が遅かったのはなぜか。袴田弁護団の主任弁護人である小川秀世弁護士は「『証拠開示の規定なんてないじゃないですか』『法律のどこに書いてあるんですか』そんなことばかり散々言われてきて、我々も法律がないというところで、率直に言って手詰まりの状態だった」と振り返る。

 再審に関する規定は、長きにわたり不十分なまま。証拠開示のルールもない。検察が重要証拠を出したのは、事件発生から44年たった後だった。再審で裁判長が重視したカラー写真も、取り調べの録音テープもだ。

 ひで子さんは、巖さんの無罪確定後も、全国各地を飛び回っている。「冤罪で苦しんでいる方が大勢いらっしゃいます。大なり小なり大変悔しい思いをして苦労しておいでになっている。だから、私は巌だけ助かればいいと思っておりません。この再審法というものをぜひ、皆様のお力で、訂正なり、改正なり、何なりとしていただきたいと思っております」(ひで子さん)

 静岡県警の津田本部長は、若手警察官に教訓を伝えはじめている。「袴田巌さんを逮捕した日から、自白を迫ったり、取り調べ室内で放尿させたりといったことが今回の事実確認でも確認されております。明らかに不適正であったと言わざるをえず、58年前の事件でありましたけれども、現在でもいろいろな不適正捜査が散見されたところであり、このような教訓を一時的なもので終わらせることなく、捜査の適正化の取り組みを不断に続けていかなければなりません」。

「デッチ上げを行なった、個人に恨みを持つものではないが、かかる非人間的行為をなさせる代用監獄という土壌はなくなるべきである。歴史は繰り返すという反復作用をみた。その生証人として存在する自分の悲しみを骨身にしみて実感している」(拘置所からの手紙 1983年2月8日)

(静岡朝日テレビ制作 テレメンタリー『長きにわたり~袴田事件と冤罪の歴史~』より)

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