■疑わしい証拠、不可解な判決

マイルズ・ブレイナー弁護士
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 判決から16年経った、2011年。「テレビカメラの前で真実を語りたい」という福迫受刑者に会うため、ディレクターはアリゾナ州の刑務所を訪れた。事件当時28歳だった福迫受刑者は45歳になっていた。

「小女姫さんと吾郎くんの殺害事件には一切関与していない」(福迫受刑者)

 反社会的組織に脅されていたため、裁判では話せなかったことがあるという。それは小女姫さん親子が殺害された「背景」についてだった。「藤田小女姫さんが、周りの方から恐喝されているということだったので、『生命保険を担保にお金が借りられないか』と僕に話があった」。

 福迫受刑者によると事件当時、小女姫さんはハワイに住む知人との間に金銭トラブルを抱えていた。その知人を通じて反社会的な組織が介入し、小女姫さん親子が殺害されたのではないかという。

「私の唯一の間違いは、エレベーターに乗ったこと。それが引き金になってここまで来ていると思います」

 実はこのトラブルをめぐって、もう一人殺害された人物がいて、福迫受刑者が脅されて運んだのは吾郎さんではなく、その遺体だというのだ。

「遺体ではないか?に関しては断じて吾郎くんではありません。(袋の遺体の身長は)160センチよりもっと小さい」

 吾郎さんの身長は180センチ以上あった。それに比べ袋の中の遺体は明らかに小さかったという。見た目だけでは判断できないので、計測の専門家に調べてもらった。160センチの福迫受刑者の身長をもとにエレベーター内のタイルのサイズを割り出し、測定してもらった。

「タイル(1枚)のサイズが16センチぐらい。タイルの寸法で投影して考えると(袋の中身は)150センチ〜160センチではないか」(計測の専門家)

  袋の中身は吾郎さんではなかったのだろうか。これについて、ブレイナー弁護士は、福迫受刑者からは何も聞いていなかったという。一方、この事件では、ブレイナー弁護士にとっても、いまだに腑に落ちない点がいくつかあるという。「(吾郎さん)殺害に使われたというこの銃弾もかなり疑わしい」。

 事件から1カ月以上すぎた頃、福迫受刑者のマンションのごみ置き場に捨てられていたソファの中から銃弾が発見された。検察はこれが吾郎さん殺害に使われたものだと主張した。発見された直後の写真には、銃弾が隙間に挟まっている様子が写っていた。「銃弾は吾郎さんの胸骨を貫通したはずなのに、少しも変形しておらず、新品同様だなんてあり得ません」(ブレイナー弁護士)

 しかも、この銃弾から吾郎さんのDNAは検出されていない。そして、もうひとつ。少なくとも福迫受刑者の単独犯ではない可能性を示す、画像を見せてくれた。福迫受刑者のマンション横のコンビニエンスストアに設置されていた防犯カメラの画像だ。裁判でも弁護側が証拠として提出したものだという。「この画像が示しているのは(ホテルの駐車場で)車が炎上したとされる時間に、彼はワイキキの店にいたということです」。

 ホテルの駐車場で吾郎さんの遺体を乗せた車が炎上したのが午後10時30分頃。その4分後、福迫受刑者は自宅マンションの隣のコンビニで買い物をしていたという。車が炎上したホテルと福迫受刑者がいたコンビニまでの距離はおよそ3キロメートル。

 事件と同じ時刻に現場のホテルから福迫受刑者がいたコンビニまで車を走らせて検証した。その結果、移動に9分かかった。ホテルの駐車場で車に火をつけ、その4分後にコンビニに向かい買い物を済ませるのは困難なことがわかった。

 ブレイナー弁護士は「物理的に不可能です。犯行には最低でも3人は必要だったと考えています」と話す。しかし判決では、他に関与した人物がいると認定されることはなかった。ブレイナー弁護士は不可解な判断だとして判決後、7年間にわたって裁判のやり直しを求めたが、認められなかった。

 目撃証言もなく、犯行に使われた拳銃も見つかっていないこの事件。裁判で本当に真相は解明されたのだろうか。取材を進めるほどに疑問は募っていった。

「実際にどういった理由で、何が一番の引き金になって小女姫さんが亡くなったのかというのはまだ私の方は理解できていいない部分が大きいんですけれども。日本で裁判をしてほしい。それで私は無実を訴えたい。せめて母が生きているうちに日本に帰りたいと思って頑張っております」(福迫受刑者)

帰らぬ遺骨と永遠の謎
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