■「谷」で起きた激しい燃焼と飛び火

八ヶ森 南西部の谷
拡大する

 今回の山火事を調査する消防庁消防研究センターの新井場公徳(あらいば きみのり)火災災害調査部長。火災発生直後に、ある場所で起きた樹冠火が山火事の拡大につながったと分析している。「やっぱり初めの1時間が効いているんじゃないかなと思います。1時40分ぐらいから八ヶ森という山の南西斜面で激しい燃焼があったようで」。

  八ヶ森は、住民たちが燃えているのを目撃した山だ。発生の翌日に撮影された八ヶ森の映像を見ると、谷の部分に黒く焼けた木が並んでいることがわかる。新井場部長は「非常に大きな煙が上がって、それが飛び火をたくさん含んでいて、2時ぐらいに湾を挟んで反対側の田浜地区まで飛び火が発生しています」と話す。

 新井場部長は、この谷で樹冠火による激しい燃焼が発生した結果、大量の飛び火が発生し、およそ1時間後には2キロ以上離れた田浜地区にまで飛んだと推測している。

「そういう激しい燃焼が起きる場所は、風が当たる斜面(尾根部)だったりするんですが、それが谷間で起きたというのが他の火災と違うかなと思っています」

 谷で向かい合った火がお互いの放射熱によって激しくなり、大きな樹冠火が起きたことに加え、リアス海岸の複雑な斜面の向きが、延焼の方向を複雑化させたとも指摘する。新井場部長は「本当にびっくりしたというか。こういうことがあり得るんだと思いました」と驚きを隠せない。

 京都大学の峠特定准教授も、八ヶ森の南側や西側に着目している。2025年3月12日に撮られた人工衛星の写真を分析すると、衛星が人の目に見えない波長の光を観測した結果から、山火事による焼損の強さがわかるという。緑の部分は焼損の程度が低く、赤い部分は焼損の程度が高い。八ヶ森の南側や西側で赤い部分が濃くなっているのがわかる。

「ここだけ明らかに強い火災焼損が強い。ここは樹冠火が明らかに起こっている。火災が起こってからすぐの領域であることから、出火してからすぐにこの樹冠火が発生して、それが大規模で広域に広がった」(峠特定准教授)

 延焼拡大の要因とみられる八ヶ森の谷で発生した大量の飛び火。新井場部長は「八ヶ森の南西の谷で激しい燃焼が起きると燃えかけの枝や松ぼっくりが風に乗って流されて、少し離れた場所で落ちてそこで着火するというのが飛び火のメカニズム」と説明する。

 飛び火がどこに落ちるのかを予測するのは難しい。住宅への延焼のほとんどは飛び火だったとみられている。

「火の粉はありました。それを追いかけて行き、消火するという活動をしておりました」(大船渡消防署 田中貴之副署長)

「すぐ落ちても消えないよう大きさのものが、ずっと風と共に降っていたような感じでした」(大船渡地区消防組合消防本部 吉田元気消防士長)

 田浜地区への延焼は、八ヶ森からの飛び火によるものと推測されている。午後2時ごろに、少なくとも3カ所で消防士が飛び火を確認している。そのうちの1つは、石浜地区の古川さんや田浜地区の木下さんが目撃した火と場所が一致する。

「1時40分ぐらいに海に行って八ヶ森方面を見たら、とんでもない大きな煙が上がっていて、その20分後の午後2時ぐらいに飛び火がやってきたと。それによって非常に広いエリアに火が広がってしまって、その後の燃え広がりがいろいろな方向へ進んでしまったというのが今回の特徴かと思います」(新井場部長)

 1カ所で生まれた小さな火は、運命の1時間を経て3370ヘクタールという平成以降、国内最大の延焼範囲にまで拡大した。

相次ぐ大規模火災と気候変動への警鐘
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