
阪神スカウト時代に井川、赤星、鳥谷ら名選手を担当した元スカウトの菊地敏幸氏(68)が、25日に行われたドラフト会議を振り返って全12球団の結果を分析・解説。千葉ロッテと中日に満点評価を、さらに北海道日本ハム、西武、ソフトバンク、広島に高評価を与えた。その一方、元スカウトとして馴染みのある阪神をはじめ、巨人、オリックスには低評価を下した。
菊地氏は10月27日に行われた六大学野球秋季リーグを中継していたAbemaTVに解説として登場すると、25日に終了したドラフト会議における全12球団の結果についてスカウト目線で総括。「今年のドラフトは1巡目の指名が3人に偏った。ここで本命を引き当てたチームは必然的に高い点数になったが、その他の1巡目の抽選が外れたりしたチームはある程度シビアに見させてもらった」と切り出すと、持論を交えながら球団ごとの評価を解説した。その詳細は次のとおり。
(以下、評価順)

◆中日 「根尾、梅津の二本釣りで投打に完璧のドラフト」
1巡目指名で競合になった根尾昴選手(大阪桐蔭高)を引き当てた時点でほぼ完ぺきといえる。さらに即戦力・右腕の梅津投手を2巡目で獲得。中日は2巡目のウエーバーで4球団目だったことを考えると、梅津投手が「残っていた」ことに驚いたはず。3巡目以降の選手の実力は未知数(あまり把握できていない)だが、結果的に、地元である東海地区出身の選手が多くなった。久しぶりに会心のドラフト。

◆千葉ロッテ 「投手、野手でウィークポイントをバランスよく補強」
高齢(ベテラン)化が進むロッテの外野守備陣にあって、藤原選手を引き当てた時点で90点。彼の身体能力があれば、直ぐにとはいかなくとも、早い時期にレギュラーを獲得して安定的に活躍するはず。さらに東妻勇輔投手(日体大)を2巡目で指名できた。彼の起用はおそらく後ろ(リリーバー)で考えているはず。3位指名に成功した小島和哉投手(早稲田大)、さらに私自身の評価も高い亜細亜大学の中村稔弥投手の獲得も含めて100点満点。非常にバランスの取れたドラフトだったといえる。

◆北海道日本ハム 「まさかの一本釣り! 野手ニーズ傾向が追い風」
1巡目で根尾選手を逃すも、2巡目で吉田輝星投手(金足農業高)をまさかの一本釣り。3、4球団、少なくとも2球団による競合が想定されていた中での一本釣りは素晴らしい結果。全球団を見渡すと、今年は野手を獲りたいというところが多かった。そのことが追い風になった。吉田投手の能力は間違いなく高い。また2巡目の野村佑希選手(花咲徳栄高)は将来クリーンナップを打つことができる選手。3巡目の生田目翼投手(日本通運)は即戦力要員。限りなく100点に近い95点。4位の万波中正選手(横浜高)は、現状では「0か100か」という印象もあるが、打球を飛ばす能力は素晴らしい。日本ハムにはしっかりとした育成方針があるので楽しみな選手。

◆広島 「広島らしい選手を多数獲得した堅実なドラフト」
4球団による競合となった小園海斗内野手(報徳学園高)を引き当てたことで、広島としては100点のドラフトだと考えているはず。小園選手はもちろん、粗削りだけど飛ばすセンスに優れた3巡目の林晃汰選手(智弁和歌山高)はしっかりと育てば楽しみな存在。全体的に広島らしい選手をバランスよく獲得した、将来を見据えた堅実なドラフトと評価できる。

◆西武 「名より実を貫いた独自路線」
周囲の前評判に踊らされることなく、将来の戦力を見据えて確実なドラフトを貫いた印象を受ける。欲を言えば、今季14勝を挙げた左の勝ち頭である菊池雄星投手のメジャー挑戦が予想される中、左投手を補強したかった(日体大の松本航投手は右の本格派)はず。ただ、今年のドラフト候補の中に左が少なかった。100点を狙ったドラフトではリスクも伴う。そんな中、80点から90点を狙った独自路線を貫いた西武らしいドラフトとして評価できる。

◆ソフトバンク 「二人を外したにもかかわらず、二人の投手を得た成功ドラフト」
1巡目で小園、辰己の両選手を逃したにもかかわらず、甲斐野央投手(東洋大)をしっかり獲ったところが、阪神や巨人とは異なる点。さらに2巡目では杉山一樹投手(三菱重工広島)も獲得。二人を外した結果、甲斐野と杉山という二人のパワーピッチャーを手に入れた。ドラフトは成功だった。3巡目で指名した野村大樹内野手は早稲田実業高ということもあり、王貞治会長から獲得の助言があったかもしれない。

◆楽天 「センターラインの強化において、目標は達成した」
藤原恭大外野手(大阪桐蔭高)の競合で負けはしたものの、後に1巡目で立命館大学の辰己涼介外野手を指名することができた。辰己選手は1年目からセンターのレギュラーで即戦力として活躍し、さらに打撃でも3割を打つ能力があると評価している。センターラインの強化という意味では、1つの目標は達成したといえる。ただし、投手に関しては則本などに続く選手が出ていない。そのことを考えれば、投手についてもう少し補強する必要があった。8位指名を受けた鈴木翔天投手(富士大)には期待したい。

◆横浜DeNA 「右の即戦力、将来性豊かな選手獲得でチーム力向上」
80点でもいいくらい。1巡目で小園選手を競合の末に逃したが、結果的に即戦力の期待が掛かる上茶谷大河投手(東洋大学)を獲得できた。サウスポーが多い先発陣において、右の上茶谷は貴重。一昨年は先発3枚で30勝ほどを挙げているので、来シーズン仮に上茶谷が10勝を挙げれば40勝が計算できる。2位の伊藤裕季也内野手(立正大)の評価も高かった様子なので、早速ポジション争いに加わってくるようになれば、全体的なチーム力アップに繋がる。4位の勝又選手、5位の益子選手も将来性があるので楽しみ。

◆ヤクルト 「根尾、上茶谷を逃すも、即戦力右腕を獲得」
1巡目で根尾選手、上茶谷選手という二人の即戦力を逃したことが大きい。本音を言えば、50点というところだが、その代わりに即戦力投手の清水昇選手(国学院大)、さらに六大学から法政の中山翔太選手を獲得した。中山選手に関しては、ヤクルトで活躍した広澤克実さんのような選手になって欲しい。

◆巨人 「主役、華のないドラフト。育成方針にも懸念あり」
阪神と状況が似ている。根尾で負け、辰己で負け、そこで方針転換ができずに2巡目で指名予定だった高橋優貴投手(八戸学院大)を繰り上げた。その他の選手を見ても、全体的に一つ順位を繰り上げて指名に至っている印象がある。高校生選手が多く、主役が居ない。皮肉にも、直前に監督就任が決定した原監督が最も華がある。育成も含め、1位の高橋投手以外は10人中9人が高校生。基本的には若手から生え抜きを育てたいという考えに基づいてのことだろうが、FA選手を持ってくることも多く、若い芽を摘んでしまう懸念は残る。

◆阪神 「外野手指名が続くチーム状況が問題」
1位指名の近本光司外野手(大阪ガス)選手がどうこうではなく、近年のドラフト方針に現在のチーム状況が表れている。11年のドラフト1位で慶応の伊藤隼太外野手、さらに15年の1位で明治の高山俊外野手を指名した。高山選手に関して入団1年目にあれだけ打ち、ポジションを獲ると思われたが、その後は伸び悩んでいる。その結果、ここ7、8年の間、外野手の即戦力を指名しなければならない状況が続いていること自体が問題。結果論になるが、辰己選手を一本釣りすることもできた。近本選手には申し訳ないが、彼は本来であれば2位で獲りたかった選手のはず。2巡目以降のウエーバーを考えれば、阪神は楽天に次ぐ2番目。であれば、藤原、辰己選手の二人を外した時点で頭を切り替えて、1巡目指名では梅津(東洋大)などの即戦力投手、2巡目に近本選手という選択もできた。

◆オリックス 「即戦力および内野手の補強ならず」
今は安達でショートを固定している(今季140試合出場)が、1年を通じて安定した活躍を望むことがまだ難しい。そこで即戦力内野手として報徳学園高校の小園海斗選手を1巡目で指名したが、想像を上回る4球団の競合で獲得ならず。全体を見ても即戦力の内野手を獲ることができなかった。2巡目の頓宮裕真選手(亜細亜大)に関しても、打撃は評価するが、捕手としてはどうか。育成には時間が掛かる。3位の荒西投手(Honda熊本)、4位の富山投手(トヨタ自動車)など社会人選手の1年目からの活躍に期待したい。
また菊地氏は、今回のドラフトで注目選手の一人とされていた金足農業高校の吉田投手についても言及。自身はドラフト前、東北楽天などの1巡目指名を予想していたが、結果的に1巡目指名がなされなかった。そのことについて「プロ野球志望届を提出した時は4球団5球団の競合になると思っていたが、その後の流れは、どうやら1巡目はなさそうだ、ということになった。今年は即戦力野手へのニーズが高く、1巡目指名が偏った。とはいえ、予想は見事に外れましたね」と悔しそうに話していた。
(C)AbemaTV


