AbemaTV開局と同時に番組がスタート、4年目に突入するもまだまだ認知度が低い「AbemaPrime」。“スマホ世代”の現役大学生に2時間まるまる見てもらうも、「途中から話が分からなくなって難しいと思った。一つのことをずっと議論されていたので長く感じた」「どうしても専門用語になると視聴者側からするとついていけない」といった声も上がる。
一方、普段から熱心に視聴しているという人に集まって話を聞いてみると、
「当事者や色々な人の意見などが聞けるので、すごく勉強になる」(黒澤修兵さん)
「かなりエッジの効いた、かなり深堀りしたニュースをやっていると思う」(マスダさん)
「地上波や他のネットメディアで取り上げないネタをやっているのが面白い」(丹羽形ノアさん)
「Twitter民や私たちネット民の声を代表して上げてくれるところが良い」(しげっぺさん)
といったポイントを挙げて評価する。その上で番組に望むことを尋ねてみると、
「日韓関係の話題でせっかく盛り上がっているのだから、もっと若者がとっつきやすいように、K-POPなどから入り、政治の問題に近づけるようにしていったらいいのではないか」(ユタさん)
「“インターネットにおけるマス”を取り上げていないように思える。だから“地上波ベースじゃん”“テレビ村の番組なんだろう”と思われる」(どんぶりのおいちゃんさん)
「事件直後の時、問題点や本質が浮き彫りになっていない状態でお話されても、普通のワイドショーと変わらない。時間が経ってからやった方がいいのではないか」(黒澤さん)
「広告やTwitterでの宣伝の仕方を頑張って、みんなの目に届けられれば」(ユタさん)
「視聴者からの意見はネットからも色々あるので、そういうところから番組制作を深めていってほしいと思う」(マスダさん)
などの提言が出された。
■「番組発で社会問題化したテーマがない」「ソリューションがない」
前出のどんぶりのおいちゃんさんは、テレビ番組の作り方は結果として最もボリュームが取れる構造に最適化されてしまうと指摘。AbemaPrimeはその外側に出ようとしていると分析する。
ゲストコメンテーターとして出演した経験を持つ、千葉商科大学専任講師の常見陽平氏は「“地上波でなかなか扱わないものを”と言うが、オリジナルで仕掛けたものがどれだけあるのだろうか。番組が光を当てたことで社会問題化したとか、解決策が生まれたものがどれだけあるかと言われれば、正直そこは弱かったと思う。例えば『Yahoo!個人』では、記事から論争が生まれ、政策にも影響を与えたものもあったと思うし、NHKスペシャルの『無縁社会』といったテーマも社会問題化した。硬派でなくてもいい。いかにもネット民っぽい人たちが無責任に語り合うでもいい。ここでしか見られないものはないんじゃないのというのが僕の問題意識だ」と指摘。その上で、「決定的に足りないのは熱量だと思う。これだけ豪華メンバーが出演してきて、これだけ熱い視聴者もいるのに。ウケるかどうか、大学生が分かるか分からないかはどうでもいい。“これをどうしても伝えたいんだ!”というものが何かあるのだろうか?」と、司会進行のテレビ朝日・平石直之アナウンサーと、郭晃彰プロデューサーに疑問を投げかけた。
これに対し平石アナウンサーは「3年間の積み重ねがあるところに私は落下傘で降りてきたので、“この場を壊さない”というのがまず大事だった。出演者も毎日違うので、まずは番組を回すことを数カ月やってきて、そろそろ言いたいことも言うという時期だった」、郭氏は「LGBTやマイノリティーの問題にすごく興味があるので、そこはすごく熱量を持ってやっている」と回答した。
また、ゲスト出演経験のある明星大学の藤井靖准教授は「社会問題などに対して、専門家の意見の陳列会みたいになっている時がある。“番組としてはこういうソリューションだ”という“おまとめ”があってもいい。そのためにも、平石さんにはもっと仕切って欲しい」とコメント。金曜レギュラーの紗倉まなは「どこに句点を置くかが難しいと思っている。1時間、2時間とはいえ、限られた時間の中で一つのテーマを話す。白熱して伝えきれないことがあったり、迷走して終わってしまうことや、どこで議論を終えれば良いのかわからないこともある。ただ、ビジネス書みたいに答えが分かっているものを見るよりも、自分で色々考えてみて、知的好奇心を刺激されるようなものであることに尊さを感じる部分もたくさんある」、同じく金曜レギュラーの宇佐美典也氏は「僕は地上波のニュースの“これで分かった”という状況を作る番組が嫌いだ。AbemaPrimeの視聴者には、“色々な知識が得られたけど、結局分かんねえな。もっと考えてみよう”で終わって欲しい。ソリューションはこうだというものがメインになるのは違う」とも話した。
常見氏は、裏番組の事例を引いて、「これだけの多人数でやるとなると、やはり司会進行が重要だ。BSフジ『プライムニュース』では人数を少なくした上で、与党も野党も呼んで2時間議論させるが、アンカーが頑張って論破せずに深めるようなフォーマットになっている。また、TBSラジオ『荻上チキ Session-22』は、出演者は論文をいっぱい書いているような専門家1人か2人を呼んで、解決策を1時間で深めている。意見の陳列会でもいいかもしれないが、どこに落とすのかという、紗倉さんの言うことも極めて正しい。また、ネットっぽいフォーマットが何もないし、雑なのと白熱は違う。色んな意見が出たとしても、“こんな結論が出たよ”とはならないから口コミも広がらない」と指摘した。
■「インフルエンサーだとか、今どれぐらいメジャーかは関係ない」
議論はキャスティングにも及んだ。郭プロデューサーは、「ゲストは専門性のある方たちをお招きしたいということでお選びしている。コメンテーターの方たちは地上波よりは若くしたいと思っている。視聴者のメインが30~40代なので、仲間だなと思えるような形を追求したい」と説明すると、常見氏はここでも課題を厳しく指摘する。
「NHKの『ニッポンのジレンマ』という番組で残ったのは古市憲寿だけで、他の人たちは目立つ世界からは退場して、コツコツと自分の研究をやっている。AbemaPrimeも人選はいいと思うが、率直に言って、使い潰してしまっていると思う。郭さんに問いたいのは、レギュラーのメンバーの中で次にパーソナリティになれそうな人は誰か、ということ。化ける人をちゃんと育てていかないといけない。やはり『Session-22』の場合、まだ荻上チキさんのことを知らない人が多い頃からプロデューサーが育てた結果、ギャラクシー賞を取る番組になった。僕はNewsPicksのことは大嫌いだが、落合陽一やホリエモンを連れてきて、彼らと一緒に伸びてきたというところもある。必ずしもゲストが視聴者を連れてこなくてもいいが、そういった嗅覚も求められると思う」。
これに郭プロデューサーが「一緒に番組を作りたいと思っているので、大御所が来たことで“視聴者が増えた。やった!”とは思っていない」と話す、「一緒に番組を作っているのはレギュラーだけではないか。僕のところに出演についてのちゃんとした連絡が来たのは今日の午後1時2分だった。結局、そこなんだよ。アベプラに出ないと言っている論者、いっぱいいるよ。今回も対応が雑だったとかさあ。ちゃんと作っていくなら、ちゃんとしようぜ」と呼びかけた。
前出のどんぶりのおいちゃん氏は「集客につながるキャスティング方法」として、「インフルエンサーのメリットを活かすのがいいと思う。質的インフルエンサーには論調のニューウェーブを作ってもらって、それに前後して量的なインフルエンサーに感覚的なニュアンスで“面白い”と言ってもらって、認知そのものを広めてもらうというのが効果的だ」と提案。一方、藤井氏は「インフルエンサーには懸念もある。“ぽい人”が出てきてしまうし、ただ人気があればいいのか。意識高い系の人は共感するのかもしれないし、そうではない人も“これが最先端なんだ”と納得するかもしれないが、後で振り返ると“何も残っていないよね”ということもあり得るのではないか」と反論。
常見氏も「インフルエンサーだとか、今どれぐらいメジャーかは関係ない。要するに“アベプラで輝く人”だと思う。有名な人だからといって必ずしも本が売れるわけではないように、それぞれ得意・不得意がある。例えば紗倉まなさんがもっともっと化けるにはどうすればいいか。“AV女優だったけれど、アベプラでブレイクしたよね”と。やはりすばらしい番組というのは、出演者が化けているし、そこから独特のうねり、熱量が生まれている。3年以上やってきて、これだけの豪華メンバーがこれだけ立派なスタジオでやっていて、それが生まれていないというのは、工夫しなければならないポイントだと思う」とした。
その紗倉は「この番組は、私がそれまで受けてきた扱いとは圧倒的に違うことがたくさんあった。たとえば“ヌードル”“セクシー女優”というふうにしか紹介されてこなかったが、この番組では“ごまかさなくていい”という姿勢で、初めてAV女優というそのままの肩書きで出た」と話した。
■「“若い人”というのは雑に括りすぎだ」
金曜レギュラーの乙武洋匡氏は「視聴者数をどう増やすかという話だが、“増やす必要があるのか”ということもきちんと語るべきだと思う。そして、荻上チキさんのSession-22のように、深いソリューションを出すということなのか、バラエティ的な要素も取り入れるのかだが、現時点では後者に寄っているという気もする。『news zero』は櫻井翔さんを呼んできて成功した。でも、僕はやっぱり媚びたくないと思う。やりたいことをやって振り切って視聴者数を獲得していきたい。そこは常見さんの言う通り、月~金のうち1回くらいはもっと個性を出してもいいのかなという気もするし、月一でもいいから、過去を振り返るのではなく、“こういう社会にしていかない?”と未来をゼロから語る。そういう番組はそんなにないので、そこを取りに行ってほしい」と話す。
「“若い人にターゲットを絞るべきだ”というような言い方をするが、“若い人”というのは雑に括りすぎだ。若い人でも恋愛系の番組が好きな人もいれば、ニュースをちゃんと見たいという人もいる。そして、ニュースをちゃんと見たいという人は、知名度よりも、自分に無かった発想や視点を与えてくれるコメンテーターを求めているはずだ。たとえば漫画家のピクピクンさんは、一般的にはまだメジャーな存在とは言えないが、彼のコメントはエッジが効いていて、なるほどと思えることが多い。常見さんがおっしゃっていたように、彼のような存在がアベプラから日の目を見て育っていくといい」(乙武氏)。
AbemaPrimeには出ても地上波には出ないという宇佐美氏は「自分の生活の中に入り込み得るニュースはこれだけだなと思った。Twitter上では常に言論の戦いが行われているが、そういうものの延長線上にこの番組がある感じで、プロレス的に盛り上がってきてくれるといい。最終的に“分かんねえけど楽しかったな”みたいなバトル感のある番組になって欲しいと思っている」、ハヤカワ五味氏も「時間がない若い世代は、何を得られるか、どれだけドキドキできるかを事前に考え得る。アベプラを見ることで何が得られるのかを事前に提示するというのは、視聴者が増えるきっかけになると思う。今のTwitterアカウントだと、何を取り上げるかはわかっても、何が知れるのかがわからないのがもったいない」とした。
最後に常見氏は、改めて「一言で言うと“アベプラ発”という企画、社会問題、人をいかに作るかだ。あと、本気でケンカしろよ、郭さん。ケンカしないとダメだよ。本気で『報道ステーションを潰しにいく』。そして、これは冗談だが、“NHKをぶっ壊す”“NEWS23もぶっ壊すくらい”の勢いということ。『朝まで生テレビ!』という、高齢者に朝まで喋らせる、働き方改革に逆行している番組なんて潰しちゃって、アベプラが天下取ろうぜ。田原総一朗さんが死ぬ前に引導を渡そうよ。戦えよ」と訴えかけた。
平石アナは「この半年、番組をやって考え方が変わったことが何度かある。“こうなんだろうな”と思っていたのに、それとは違う意見を聞いて、“それはその通りだ”と。見ている方にも、ぜひその経験をして頂きたいなと思っている」と語った。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
▶映像:議論の模様(期間限定)
■Pick Up
・キー局全落ち!“下剋上“西澤由夏アナの「意外すぎる人生」
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・「ABEMA NEWSチャンネル」知られざる番組制作の舞台裏