昨年9月、史上最年長でタイトルを獲得し涙した木村一基王位(46)は、新たな試みに原点である「将棋を楽しむ」ことを目指している。超早指しというルールだけでも斬新だった「AbemaTVトーナメント」が、第3回大会は個人戦から団体戦にモデルチェンジ。また、リーダー棋士が2人の仲間をドラフトで指名することになった。ここで木村王位がテーマに掲げたのが「楽しむ」というもの。肩に力を入れることなく、自然体で戦いに挑めるメンバー構成を目指す。
個人戦だった第2回大会では、予選から出場したが快進撃で本戦へ。優勝した藤井聡太七段との三番勝負でも白熱した勝負を繰り広げた。「大変楽しく指すことができました。ただ、終わった後には負けると悔しいもんですね。悔しさがふつふつと湧いてきました」という心こそが、ベテランの域に入ってもさらに強さを維持できる原動力だ。
若手有利と言われる早指し、さらには通常にはない持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という特殊なものでも、十分に戦える手応えはつかんだ。「早指しですので勘が大事かなと思っていたんですが、実はやっぱり日頃の研究ですとか、そういうものが結構大事なんだと気付かされました」。時間に追われるほど、新たに生まれるひらめきより、日頃の研鑽に支えられた手が浮かぶ。どれだけ準備ができるかが、この局地戦でも重要だと踏んだ。
ドラフト会議に参加する棋士の中では、数少ない超早指し戦の経験者。どんな仲間を選ぶのかは大きな注目点だが「結構悩みましたが、考えはまとめてきたつもりでいます」と、こちらでも準備を整えた。「原点にかえって、将棋が一緒に楽しめるんじゃないかと、気の置けない人を選ぼうかと思っています。こう言えばかっこいいようですが、いざチームが負けた時に『あんたのせいで負けた』と言える人を選ぼうかな」と、サラリと笑い要素を放り込むあたりは、解説でも大人気の木村王位らしいところだ。
木村王位にとって「気の置けない」存在は、果たして誰なのか。ファンからすれば、誰とでもうまく語れるイメージもあるだけに、いよいよ予想は困難を極める。
◆第3回AbemaTVトーナメント
第1回、第2回は個人戦として開催。羽生善治九段の着想から生まれた持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算されるフィッシャールールは、チェスなどで用いられるもの。1回の対戦は三番勝負。過去2度の大会は、いずれも藤井聡太七段が優勝した。第3回からはドラフトを経て構成される3人1組の12チームが、3チームずつ4つのリーグに分かれて総当たり戦を実施。1対局につき1勝を1ポイント、1敗を-1ポイントとし、トータルポイントの多い上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出する。優勝チームには賞金1000万円が贈られる。
◆出場チーム&リーダー
豊島将之竜王・名人、渡辺明三冠、永瀬拓矢二冠、木村一基王位、佐藤康光九段 三浦弘行九段、久保利明九段、佐藤天彦九段、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、Abemaドリームチーム(羽生善治九段)