名人になって知る「順位戦を戦わない日々」渡辺明名人だから感じる対局ペースの難しさ
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 プロ将棋界の構造の基礎となっている順位戦。上はA級から下はC級2組まで、どこかのクラスに所属し、月に1局ほどのペースで対局を重ねる。この順位戦に参加しないのは、フリークラスの棋士と名人だけだ。プロ入りから丸20年を迎えた年に、初挑戦で名人の座についた渡辺明名人(棋王、王将、36)も、初めて「順位戦を戦わない日々」を送り始めている。各棋戦で活躍する超一流棋士だが、やはりベースとして戦ってきた順位戦がないというのは、少し勝手が違うようだ。

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 新型コロナウイルスの影響もあり4、5月の2カ月はほとんど公式戦が行われなかった将棋界。自粛期間が明けた6月から、トップ棋士を中心に一気に対局が決まり、過密日程が続いたのはよく知られるところだ。渡辺名人も、名人戦だけでなく棋聖戦でも番勝負を戦い、かなりハードな日々だった。「対局が立て込んでいる時は、休む余裕も時間もないんですけど」と振り返るが、この秋はかなり落ち着いた。「今は対局の間が結構あるので、夏までのペースとは全然違いますね。ゆとりを持って取り組んでいます」と語った。

 ところが対局がハイペースでもスローペースでも、それぞれ違った大変さがある。今は渡辺名人からすれば、ちょっと間隔が空き過ぎだ。「10日に1局ぐらいがちょうどいいぐらいなんですかね。今は1カ月ぐらい空いちゃうこともあって、そうするとどうしても実戦感覚というところでは、あまりよくない」と口にした。

 渡辺名人ほどになると、なかなか四段、五段といった棋士と戦う機会も減る。たまに当たった時は「解析もできていないから、新鮮味がありますよね。(若い棋士からは)感想戦で情報を得たりします。どれくらい読んでいるのかとか、形勢判断とか」と、新たな発見がある。ただ、現在は対局と対局の間が空き、戦うのは強豪ばかり。実戦感覚が鈍る状態で勝てる相手でもない。「タイトルを持っていると、そういう時期がどうしても生じる。少ない時期から、タイトル戦が始まると急に増えていく。仕方がないんですけどね」と、強者ゆえに避けられない悩みだ。そこで気付いたのが「順位戦を戦わない日々」について。「順位戦の対局は月に1回あったので、それがないと対局がないですね。拍車をかけています。秋冬は特に感じますね」と、まさにこの時期の対局不足に直結していた。

 現在、タイトル保持者は4人。3つのタイトルを持つ渡辺名人を筆頭に、豊島将之竜王(叡王、30)、藤井聡太二冠(王位、棋聖、18)、永瀬拓矢王座(28)で、最近では「4強」と表現されることも増えてきた。「レーティングを見ても、そういう状況が1年ぐらい続いていますね。自分がその中で最年長なんで、最初に脱落するのは年齢的に自分」と苦笑いするが、あっさりと“現役最強”から退くつもりはない。「基本的に年長順に厳しくはなるんですけど、そこはこれから踏ん張らないと、という意識はありますね」と、強く語った。

 将棋界はタイトルを持つほど、対局ペースが過密と過疎を繰り返す。棋士の力はどうしようもないことについても、うまく対応していかないことには長期政権は築けない。渡辺名人は、この秋冬をどう過ごしてタイトル防衛、さらには4つ目の奪取へとつなげるだろうか。

ABEMA/将棋チャンネルより)

渡辺名人誕生の瞬間!名人戦七番勝負 第六局1・2日目 豊島名人 対 渡辺二冠
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