2020-21シーズンから夏の東京オリンピック、A代表と休みなくプレーし、所属するシュトゥットガルトで主将も務めることになった遠藤航。

 今シーズンはインサイドハーフでのプレーも増えた中、ブンデスリーガの「デュエル部門」2年連続1位を獲得。チームはギリギリでの1部残留となったが、最終節で遠藤自身のゴールで劇的に残留を勝ち取った。

 クラブ、日本代表の中心選手として戦った1年を終えた遠藤に、シーズンを振り返ってもらうとともに、日本代表としての6月の4連戦、そしてFIFAワールドカップカタール2022への思いを聞いた。

インタビュー=小松春生
取材協力=プーマ ジャパン株式会社

■攻撃でのクオリティやタイミングは良くなっていた

遠藤航

[写真]=須田康暉

―――2021-22シーズン、どのような1年でしたでしょうか。

遠藤 個人的にはすごく厳しいシーズンだったと思いますが、最終的に残留できたので、ホッとしたシーズンでした。

―――チームではボランチでもインサイドハーフでもプレーしました。

遠藤 アンカーの方がやりやすいという感覚がまだありますけど、新しくインサイドハーフでプレーして、自分のプレーの幅もまた少し広がったと思います。より攻撃にフォーカスする中で、どう得点やアシスト、攻撃に関与していくのか、守備で自分の良さを、どう出していくかを考えながらシーズンを通して戦ってきたので、成長できたシーズンだったと思います。

―――インサイドハーフでプレーすることで新たに発見できたことは何でしょう。

遠藤 攻撃に関して言うと、アンカーの時はディフェンスラインとの関係をすごく大事にしていて、どうやって距離感を近くしてボールを受けるのかとか、守備でのコミュニケーションなどを意識していたんですけど、インサイドハーフだと前の選手との関わり方をどうするかになるので、自陣でのビルドアップはアンカーとディフェンダーに任せながら、自分が少し高い位置でボールを受けて、そこからどう前の選手と関わるかを意識していました。なので、ボールを触る回数自体は少し減っている感覚ですけど、攻撃でのクオリティやタイミングは良くなっていたと思います。

―――アンカーの位置から降りてボールを受ける時のプレッシャーとインサイドハーフとして相手陣でボールを引き出す時に受けるプレッシャーは全く違うと思います。

遠藤 インサイドハーフでプレーする方が、もちろんプレッシャーはありますけど、僕の場合はそんなにビビらずにやれると言いますか。アンカーであれば、失うと即ピンチになりますし、相手から見れば奪いどころなので。でも、インサイドハーフであれば、より厳しいところで受けるという前提がわかっているので、失ってもいいわけではないですけど、失ってもしょうがないというか、リスクを負いながら相手の嫌なところを取るというところが違います。

■デュエルのタイトルは僕が取ったことに意味がある

遠藤航

[写真]=須田康暉

―――インサイドハーフを経験することで、逆に自分がアンカーをやるときに、どういうボールをつけたほうがいいのか、あえてインサイドハーフを飛ばす、縦ではなく一度落ち着かせる、という判断の材料になったと思います。

遠藤 いろいろなポジションをやることが多いので、おっしゃるように、DFが何を考えているのか、どういうプレーをしたらチームメイトにとっていいのか、自分がインサイドハーフの時にアンカーの選手に何を求めるのか、というところはうまくコミュニケーションを取りながらやっています。他のポジションをやることでアンカーでのプレーに生きてきたりもするので、そこはメリットですね。

―――チームとして厳しいシーズンではあったけれど、逆に未来への糧を得たシーズンでもあったと。

遠藤 そうですね。オプションが増えましたし、ポジションがどんどん前になる選手も、なかなかいないと思います(笑)。特に攻撃面ですごく成長できたと思いますし、守備面での貢献という意味でもさらにできていると思っています。

―――ブンデスリーガのデュエル部門で2年連続1位となりました。この結果はどう捉えていますか?

遠藤 正直、今年は取れないと思っていました。インサイドハーフが多くなり、守備で自分がボールを奪うシーンはそこまで多くなかったと思いますけど、攻撃で奪われないことも“デュエル”にカウントされるので、最終的に1位を取れたと思います。1シーズンだけのタイトルだったら「たまたま」と言われるかもしれませんけど、2シーズン連続はなかなかできることではないですし、個人的に嬉しく、僕が取ったということにも意味があると思います。自分のストロングポイントとしてこれからも出していきたいですね。

―――「日本人はフィジカルが…」と言われますが、タイトルを取ったことでより強く “デュエル”の部分を日本人に対しても示せたことは大きいと思います。

遠藤 「日本人はフィジカルで劣るって本当?」という、みんなの思う“普通”を疑ったことが、個人的には大事でした。“日本人だから”は気にせず、他の選手、自分の特徴を知るべきだし、自分もこうやって少しずつ証明できているので、少しずつ日本人のイメージを海外でも日本でも変えていければいいですね。

―――“普通を疑う”姿勢は日ごろからですか?

遠藤 すごく意識しているわけではないですけど、「これって本当?」と自分で納得するまで調べる癖が少しあって。それが考えるきっかけにもなりますし、フィジカルの話で言っても、そもそも「日本人と外国人」と言われてもヨーロッパ、アフリカ、南米、他のアジアといろいろあるので、「日本と海外の時点でおかしいんじゃない?」といった感じで深堀をすることが個人的には好きなんです。

■システム変更はターニングポイントだったけど…

遠藤航

[写真]=須田康暉

―――自身で試合を振り返るなどしている『月刊遠藤航』などを通じて、積極的に発信をしていますし、日本代表取材でも遠藤選手の話す量が一番多いと思っています。

遠藤 しゃべりが早いこともありますけど(笑)、インプットするタイプなので。発信をする理由としては、僕も日本代表選手の中心の一人として出られるようになり、その自覚もあるし、もっと日本人が普段の会話でサッカーの戦術を話すような文化になっていってほしいなと、ドイツに行っても感じているからです。休みの日、ドイツでテレビをつけると日本で言う地上波で試合のハイライトを見ながら、話し手がずっとサッカーの話をしているんです。文化としてすごくいいなと思いますし、サッカーを身近に感じてもらえるなと。そう感じているから最近は発信している部分もあります。

―――日本代表についてもうかがいます。最終予選は苦しいスタートでしたが、W杯出場権を勝ち取りました。

遠藤 振り返ると厳しい戦いでしたけど、ネガティブになっていたかというと、個人的にはそうではなくて。W杯に絶対に行くという思いと、行けるという自分を信じる気持ち、日本代表を信じる気持ちを常に持っていたので、焦りはなかったし、最後はしっかり決められてよかったです。

―――10月のオーストラリア戦で3センターにシフトしましたが、W杯本大会を見据えても有効なやり方だと思います。本大会でジャンプするための助走として、最終予選で積み上がったものは何でしょう。

遠藤 システムを変えたことは一つのターニングポイントではあると思います。でも、システム、戦術を変えることは普通に起こりえる話で、オプションとして2ボランチは持っていていいし、3-4-3がどうかなど、あまりシステムありきで戦っているわけではないので。相手の状況やプレースタイル、自分たちのメンバー構成などに応じて真ん中が2枚なのか3枚なのかを使い分けをしていけばいいと思っています。今はベースとして自分がアンカーで、プラス2というのができつつあるので、それを高めていくことも作業としてありだと思っています。

―――これまではアジアのチームと対戦することが多く、積み上げてきたものをアジア以外の国ぶつける意味でも重要な4連戦になります。

遠藤 まずは出た試合でしっかりと自分のパフォーマンスを最大限出すことです。あとは最終予選でやっていたメンバーではない選手との組み合わせもあるかもしれないので、そういう選手の特徴を生かせるようにしたいですし、自分でもいろいろ試したいと思っています。組み合わせが変わることで、しっかりとパフォーマンスが出せるか、新たな刺激をチームに与えられるかが大事です。例えば僕がインサイドハーフをやってもいいと思っていますし、最終的には監督が決めることなので、それに対応する準備はできているつもりです。

■ドイツとの初戦、すごく楽しみ

遠藤航

[写真]=須田康暉

―――W杯まであと6試合しかなく、あっという間に本番となります。ドイツ、スペインという優勝経験国と同じ組になりました。

遠藤 W杯に出ることがまず特別だと思っているので、対戦相手がどこということで特別感はないですが、W杯に出るのであれば、ドイツやスペインのようなチームとやる方がいいと思いますし、強い国とやりたいと思っていたので、ドローを見たときに感情も高ぶって、嬉しい気持ちでした。W杯まで時間は少ないので、それぞれが所属チームで、どれだけコンディションを上げ、少しでも成長できるかという部分が大切になるので、代表とチームと両方しっかりといいコンディションで続けることが大事ですね。

―――3年前のインタビューでは「W杯にレギュラーとして出るという目標が現実的なものとしてある」と言っていました。まだ保証はされていませんが、手が届きそうなところまで来ました。

遠藤 目標設定自体は悪くなかったと思っています(笑)。目標は達成するためにあると思っていて、その設定がすごく大事で。高望みし過ぎてもよくないし、手が届きそうなところに置くことが大事なので、当時の目標が「レギュラーとして出る」ということだったと思うし、それに向けてロシアW杯から今までやってきたので、あとは実現するだけです。

―――それが実現できた時の最初の相手がドイツというのもめぐり合わせですね。

遠藤 そうですね。不思議な感覚と言いますか。ブンデスリーガでプレーしたい、海外でやらないといけないと思っていた中でドイツに来て、初戦でやれるということは個人的にすごく楽しみです。