前回の連載コラムで、「チュニジア、森保ジャパンに既視感」という記事を書いた。
キリンカップ、チリを下したチュニジアは4−3−3というシステムだけでなく、「いい守りからいい攻めを作る」というコンセプトだった。受け身的で、ソリッドかつ効率的。トランジッションにはオートマチズムを感じさせた。
まさに、森保ジャパンが目指すサッカーに近かった。
そしてキリンカップ決勝、チュニジアは日本と対戦した。ミラーゲームとなったが、戦術的な精度、強度で上回っている。各ポジションにスピード、パワーのある選手を適材適所に配置。プレッシングとリトリートを使い分け、ボールを持たせても主導権は与えなかった。自分たちの土俵に引き摺り込む印象で、カウンターの切れ味は鋭く、日本のミスを逃さなかった。
0−3での完勝も、さもありなん、と言ったところか。
単刀直入に言って、日本は何もかも下回った。どうにかサイドを崩しても、中央の堅固な守りに防御された。優勢に攻めたが、術中にはまったと言える。決めきれずに消耗したところ、綻びが出た。
先制点のシーンでは、立て続けにミスが出てしまった。まず左サイドで伊藤洋輝が簡単に入れ替わられてしまう。これでディフェンスラインは混乱。吉田麻也が背後を取られ、慌てて後ろからのタックルを仕掛け、PKの判定となった。板倉滉がカバーの声をかけていたら、と思うと、連係の問題もあった。
その後も、吉田と板倉は背後へ出たボールに一瞬、お見合いする形になって対処が遅れている。GKシュミット・ダニエルと3人の間に溢れたボールだっただけに、簡単ではなかったことは間違いない。しかし一人が率先してアプローチしていれば、なんでもないシーンでもあった。特に吉田のこの日のプレーは鈍く、高いレベルで言い訳ができる失点ではない。
日本は「ミスを逃さない」はずが、お株を奪われてしまった。結果、自らのミスが目についた。3失点目でも契機を作った吉田だが、チームとしての成熟度で劣り、これまで堅牢さを担保してきた彼だけを責めるべきではない。
森保ジャパンにおいて、吉田と並んで主力と言える遠藤航も、丸裸にされていた。7番の選手に背後を狙われていたし、自陣でのパスミスで致命傷になりかけ、仕掛けの守備も雑になった。4連戦の疲れは出たか。
組織の劣勢で個人のプレーも乱れ、さらに組織力も低下させた。負の連鎖だ。
「チュニジアはデザインされたプレーだった。オートマティックに背後を狙われていた」
試合後、森保一監督は訥々と語った。研究された挙句、ホームのミラーゲームで完敗した。90分間の中で、修正もできていない。むしろ、相手ペースだった。
それがミラーゲームで突きつけられた現実である。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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