決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗戦、16強の壁にまたも阻まれる

 発熱のため、カタール・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦のクロアチア代表戦(1-1/PK1-3)でベンチ入りできなかった久保建英(レアル・ソシエダ)は、宿舎の部屋で見たという試合について「PKじゃなかったら、勝っていたと思います」と、感想を述べた。

「客観的に第3者が見ても、日本のほうが良いサッカーをしていた。判定勝ちみたいなものがあれば、3-0で日本だと思う。(16強の)壁というか、PKまで行ったので運ではないと思いますが、PKまで行かせたことが、日本としては悔しかったと思います」

 過去最高成績のベスト8進出を目標に掲げていた森保ジャパンだが、当初、目標達成は不可能だと思われていた。無理もないだろう。グループEには、過去W杯で4度の優勝を誇るドイツ代表、2010年のW杯優勝国であるスペイン代表が同居していたのだ。

 それでも初戦のドイツ戦で2-1の逆転勝利を収めると、一気にベスト8進出の期待が高まった。ところが続くコスタリカ代表戦では日本時間19時キックオフという絶好のアピールチャンスで勝利が期待されながらも、まさかの敗戦(0-1)を喫してしまう。最終戦のスペイン戦に勝たなければ決勝トーナメント進出が難しい状況に陥った日本だったが、ここで再び世界を驚かせる金星(2-1)を挙げて、グループE首位でラウンド16に進出したのだ。

 なぜ、クロアチアに勝てなかったのか。この原稿内に、改めてこの経緯を書いたのには理由がある。日本は色んな意味で、この試合までに出し切っていたと考えるからだ。

 初戦のドイツ戦から日本にとっては120%の力を出しても、必ず勝てるとは限らない相手だった。2戦目のコスタリカ戦で森保一監督はターンオーバーを行い、先発5人を休ませた。点が入らなかった後半には、初戦同様にMF伊東純也(スタッド・ランス)やMF三笘薫(ブライトン)を両ウイングバックに置く3-4-2-1も用いて点を取りに行った。しかし、最後までゴールを奪えず、逆に自陣でのミスからボールを失い、ゴールまで決められて敗れてしまった。

 これによって第3戦のスペイン戦でも、コスタリカ戦に出場した軸となる選手たちを休ませられなかった。DF板倉滉(ボルシアMG)は、累積警告で決勝トーナメント1回戦で出場停止になったが、それも避けられていたかもしれない。グループリーグで日本は選手たちの消耗を抑えられなかった。また、対戦相手に3-4-2-1を分析させる素材もたっぷりと与えていた。

前半から飛ばしていた日本はかなり押し込まれる状況に…

 クロアチア戦、日本は序盤から優勢に試合を進めた。最終ラインを押し上げてコンパクトに陣形を保ち、最前線ではFW前田大然(セルティック)が強烈なプレッシングをかけていく。MF遠藤航(シュツットガルト)とMF守田英正(スポルティング)もこぼれ球を回収し、守備時には最終ラインに吸収されていたDF長友佑都(FC東京)とMF伊東純也(スタッド・ランス)も、速攻を狙ってサイドを駆け上がった。

 遠藤が「入りは悪くなく前半はほぼパーフェクトな流れ」と振り返ったように、前半は前田が先制点を挙げて1-0で折り返す。今大会、初めて先制点を奪い、リードした状態でハーフタイムを迎えた日本は、選手交代なしで後半に臨んだ。こちらも今大会で初めてのことだったが、前半と同じように試合を進めていこうというメッセージは明確で、失点しないことを考えてカウンターを狙うコスタリカ戦と同じ状況になった。

 前半から飛ばしていた日本は、かなり押し込まれる状況になり、明確にエリア内にハイボールを入れて、高さと強さでゴールを狙いに来たクロアチアに苦しめられる。そして後半10分には、アーリークロスから伊東のマークを外したFWイバン・ペリシッチにヘディングで同点ゴールを決められてしまう。

 再び点を取らなければいけなくなった日本は、反撃の軸になるMF三笘薫(ブライトン)を起用した。グループリーグからサイドで猛威を振るったドリブラーに対して、クロアチアはしっかりと対策を立てて、三笘にボールを入れさせない。ボールが入った時も、前方と内側のスペースを消して、三笘にバックパスを選択させた。

 三笘は「試合に入るのが難しかった」と言い、「自分が行き切れればよかったが、ミスも多かった。2人来ても抜き切らないといけないし、1対1のところもあった。チャンスで行き切れなかったのは悔いが残るし、それだけの実力だった」と、涙ながらに語った。それでも延長前半15分には、自陣でボールを受けると独力でボールを運び、シュートを放ったが相手GKの正面へ。この場面についても「簡単にセーブされるボールだった。もっと精度を上げないといけない」と、悔しがった。

体力的にも、戦術的にも、人的にも、決勝トーナメントを戦う余力は必要

 個人の力を上げる必要性を語った三笘だが、チームとしても攻撃が機能していたとは言い難かった。浅野のスピードを生かそうとする場面もあったが、単調な攻撃でクロアチアの守備を苦しめられない。最終的に森保監督は交代枠を一枚残した状態で120分間を終えたが、冒頭の久保が欠場したこともあり、この緊迫した状況を打開できる駒は指揮官の手もとになかった。

 体力的にも、戦術的にも、交代カードも、この試合までに出し切っていた日本は、2点目を挙げるだけの余力を残せていなかった。一方のクロアチアは、MFルカ・モドリッチとMFマテオ・コバチッチを同時に下げるというプランに出る。絶対的な存在がいなくなった一方で、クロアチアは中盤に運動量と「何をしてくるんだろうというのはあった」(DF谷口彰悟/川崎フロンターレ)と、選手交代で日本に恐怖感を与えることに成功していた。

 結局、延長で日本はチャンスらしいチャンスを作れずに、PK戦を迎えた。今大会、初戦でドイツを相手に同点ゴールにつながるシュートを放ったMF南野拓実(ASモナコ)が日本の一番手を務めたが、シュートをGKに止められると、その後も三笘、DF吉田麻也(シャルケ)がPKを失敗し、日本は敗れた。

 PKについても、改善の余地はあるだろう。だが、グループリーグを戦い抜いても、体力的にも、戦術的にも、人的にも、決勝トーナメントを戦う余力は必要になる。次回の大会からは、フォーマットが大きく変わるため、今回までの経験は意味がなくなるかもしれないが、4年間で大きな成長を見せた日本は、この成長曲線を続けていく必要がある。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)