■12月5日/カタールW杯 決勝トーナメント・ラウンド16 日本代表1ー1(PK:1−3)クロアチア代表(アルジャヌーブスタジアム)

「ベスト8の壁」に、またしても阻まれた。

 日本時間の12月5日深夜に行なわれたクロアチア戦で、日本はPK戦の末に敗れた。ラウンド16進出は2002年、10年、18年に続いて4度目で、今回もまたここで大会から撤退することとなった。

 02年は前半のうちにトルコに先制され、相手を攻略できないまま0対1で押し切られた。

 10年はパラグアイにPK戦で敗れた。PK戦まで何とか持ち込んだ、という内容だった記憶がある。

 ベルギーと接戦を演じた18年は、試合の流れが勝敗に影響を及ぼした。2対0から同点に持ち込まれた時点で、流れは相手にある。後半終了直前の失点は悲劇的だったが、じわじわと追い詰められた結果の敗戦だったとも言える。

 今回はどうだっただろう。

 FIFAのマッチレポートは、シュート数が12本対16本で、枠内シュートはどちらも4本ずつである。CKは8本対5本で、日本が上回る。ボールポゼッションは36対51だが、攻め手がまったくなかったという印象はない。55分以降は1対1で推移していったわけだが、ベルギー戦のような「追い詰められていく空気」は漂っていなかった。

 キャプテンの吉田麻也の皮膚感覚は興味深い。

「スペイン、ドイツとの戦いとは違って、自分たちがゲームを支配する時間も長く持てて、決してドン引きして守り切るようなサッカーをしたわけじゃない。こういう形を強豪相手にも出していけるというのは、今後の明るい材料じゃないかなと思います」

 ポゼッションという数字以上に、自分たちでボールを動かすことはできていた。しかも、W杯開幕前は試合をクローズさせるオプションと見られていた3-4-2-1で、機能性を担保しながらクロアチアと伍して戦ったのだ。グループステージの試合と同様に、この日も複数のポジションで起用された選手がいる。戦術的な柔軟性においては、過去最高の水準にあったと言っていい。

■これまでのW杯と違った「3枚のジョーカー」

 ベスト16進出への道のりも、これまでとは違った。

 18年のグループステージでも、ポーランドとの第3戦でスタメンを入れ替えている。今回はコスタリカとの第2戦でターンオーバーを敷いたが、そもそも先発起用を想定していた冨安健洋、酒井宏樹、遠藤航らがスタメンを外れる試合があった。グループステージの2試合に先発した久保建英も、クロアチア戦を体調不良で欠場している。クロアチア戦では板倉滉も出場停止で使えなかった。

 一時的とはいえ、スタメンで見込んでいた選手をこれだけ欠いている。そのなかで、グループステージを2勝1敗で首位通過したのだ。チーム全体の力で勝ち取ったラウンド16進出であり、過去3度とはその中身が異なる。

 もうひとつ忘れてならないのは、「逆転勝ち」である。ドイツ戦とスペイン戦では、後半の2発で試合を引っ繰り返した。逆転勝ちの経験をほとんど持たないチームが、W杯という大舞台で粘り強さとタフネスさを発揮したのである。

 その要因となったのが「ジョーカー」の存在だ。

 吉田は言う。

「4年前は時間が長引いたらキツいなという感覚だったんです。いまは長引けば長引くほど、ウチの特徴が出せる、そういう選手が揃っているなというのはあったので、チャンスは増えてくるんじゃないかなという感覚で、後ろは我慢を続けるだけかなと思っていました」

 彼が言う時間とは、「耐える時間」を指している。ドイツ戦とスペイン戦では、相手の時間をしのぐことで逆転の可能性をつなぎ、後半のギアチェンジで攻勢に転じた。18年は本田圭佑がジョーカー的に起用されたが、今回は浅野拓磨、堂安律、そして三笘薫と、試合の流れを変え得るカードが3枚あった。これは、過去3度のラウンド16進出との違いにあげられるだろう。

■PKキッカーの決定に表われていた森保ジャパン戦い方

 PK戦のキッカーは、蹴る意思を示した選手に託された。選手の自主性を尊重するのは、森保一監督らしい。

 カタールW杯のチームには、一体感があった。選手からは「いいチームだった」という声が聞かれた。26人全員が当事者意識を持って、ベンチの選手たちもプレーしている選手と同じ熱量で戦っていた。ベテランがチームを下支えする一体感は02年や10年のチームも感じさせたが、今回のチームは長友や川島永嗣が存在感を示し、これまでよりもさらに強い一体感が生み出されていた気がする。

 歴代のチームより優れた点がありながら、ベスト8の壁を破れなかったのはなぜか。対戦相手の違いはもちろんあるが、日本にも足りなかったものはあるはずだ。「足りなかったもの」を検証していきたい。