EAFF E-1サッカー選手権決勝大会に参戦していたサッカー日本代表は、7月27日に行われた韓国との第3戦に3-0の快勝。3試合を2勝1分とし、2013年以来のE-1選手権制覇を達成した。森保一監督下のチーム「森保ジャパン」にとってはこれが初タイトルとなり、ピッチには笑顔があふれた。
一方で大会期間中には、同指揮官への批判が相次いだ。なかでも第2戦の中国戦(7月24日)は、U-23を主体とする事実上の格下相手に攻めあぐねて0-0のドロー。初戦の香港戦(7月19日)に6-0で快勝した反動もあり、余計に厳しい声を集めることとなってしまった。
また、観客動員数の低迷も目立った。香港戦はアクセスに難のある「茨城県立カシマサッカースタジアム」での平日開催だったとはいえ、動員はわずかに4980人。中国戦と韓国戦は「豊田スタジアム」で行われ、前者が1万526人、後者は今大会最多の1万4117人だった。同時期にパリ・サンジェルマン(フランス1部)の日本ツアーが開催され、3試合で16万人以上を集めたことから、余計に集客力の差が明白となった。
そもそもE-1サッカー選手権は海外組が不在のため観客が集まりにくい状況にはあり、日本で開催された2017年の前回大会も満員には遠かった。とはいえ、その際はすべて「味の素スタジアム」で行われ、初戦の北朝鮮戦が2万806人、第2戦の中国戦が1万7220人、第3戦の韓国戦が3万6645人を動員している。今大会と比較すると、1試合あたりの平均では約1万5000人もの大差が生じた。
FIFAワールドカップ・カタール大会の出場権を獲得し、AFCアジアカップで準優勝(2019)、E-1サッカー選手権ではタイトルを獲得。それなのになぜ、森保ジャパンへの批判の声が大きく、集客力が低迷しているのだろうか。

森保ジャパンの勝率は歴代1位
歴代の日本代表の勝率を監督別に比較してみると、実は森保ジャパン(2018-)は約68%でなんと1位である。なお2位はオシムジャパン(2006-2007)の65%、3位はオフトジャパン(1992-1993)の63%、4位はアギーレジャパン(2014-2015)の60%となっている。
では大会での戦績はどうなのだろうか。勝率上位の4つの日本代表がすべて出場しているアジアカップで比較してみる。オフトジャパンは優勝、森保ジャパンは準優勝、オシムジャパンはベスト4、アギーレジャパンはベスト8。森保ジャパンは、こちらも決して悪くない。
もっとも重要なワールドカップをは11月に控えるにせよ、現在までの戦績では歴代の日本代表の中でも非常に良いといえる。つまり成績が悪いために批判され、集客力が低下しているわけではない。戦術面が批判されることは多いが、結果が出ているのであれば間違っていないとみることもできるはずだ。
結果や戦術への批判は後付けで、最大の要因は日本代表の監督とクラブの監督で求められるものの違いを、森保監督が認識できていないことにあるのではないだろうか。

サンフレッチェ広島での名監督ぶり
森保監督は、2012年から2017年7月までサンフレッチェ広島を率いていた。J1リーグではそれまで中堅の一角だったチームを、6シーズンで3度の優勝に導き手腕が非常に高く評価されるようになった。資金力に優れたクラブでなくともJ1を制することができる。それを実際に示した森保監督率いる広島は、地方クラブに間違いなく大きな希望を与えた。
その反面、終焉の時はあっけなく訪れている。2015年の優勝を最後に広島は低迷しはじめ、2016年は6位、2017年にはシーズンの半分となる17試合を終え17位。そして成績不振のために、森保監督の退任が発表された。毎年のように主力選手を引き抜かれるという難しさがあったにせよ、メンバーをある程度固定し戦っていたことも、急速に順位を落としていった理由の1つだろう。
ただし、これはやむを得ないものだったとも言える。限られた戦力で優勝を達成するには、ある程度メンバーを固定しながら早期に戦術の浸透を図るのが合理的だ。チーム全体の底上げと引き換えに、3度ものJ1優勝を手にしたのだからその選択は間違いではない。Jリーグでの勝利が最重要視されるクラブチームにおいて、やはり森保監督は名監督だった。

日本代表監督に求められるものは
日本代表の監督としては、森保監督のこのメンバー固定こそが批判の要因となっている。代表監督とクラブ監督の違いとして、森保監督に欠けていると思われる資質をまとめてみよう。
代表はクラブチームのように限られた戦力でやりくりする必要はなく、日本人選手全てから選ぶことが可能。サポーターは誰が選出されるかに注目し、新たなヒーローの出現を心待ちにしているのだ。つまりまず代表監督には、結果だけでなく、どれだけ多くの選手を試しどれだけ特徴を発揮させられるかが求められている。
その点「クラブチームの名監督」の森保監督が、その期待に応えることは難しい。
もう1つ、代表人気が高かった頃を思い出すと大切な要素がみえてくる。トルシエジャパン(1998-2002)では「フラット3」、オフトジャパンでは「アイコンタクト」に「トライアングル」。そして絶大な人気を誇ったオシムジャパンには「ボールも人も走るサッカー」など、それぞれに明確なキーワードが存在した。イビチャ・オシム監督の人生をまとめた本『オシムの言葉』は累計100万部近くを売り上げており、監督自体の人気が抜群だった。
その点、森保監督は良くも悪くも地味だ。メディアがこぞって取り上げるような、個性的なキーワードは存在しない。
昇格や降格がかかったJリーグでは、結果がなにより重要だ。だが日本代表はファン層がやや異なり、スタジアムにはある種、お祭りのような雰囲気が漂う。そのなかで監督には、人気者を次々と生み出し個性的なコメントで会場を沸かせ、お祭りを盛り上げることも求められている。
結果を出しながらも批判され人気が低迷する。その最大の要因は、森保監督が日本代表監督ならではの上述の役割を果たせていないためなのだ。