サッカーの奥深き世界を堪能するうえで、「戦術」は重要なカギとなりえる。確かな分析眼を持つプロアナリスト・杉崎健氏の戦術記。今回は、カタール・ワールドカップに臨む日本代表のメンバー発表前、最後の代表活動となった9月シリーズの2試合をディープに掘り下げる。

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 日本代表は9月のアメリカ戦(2-0)とエクアドル戦(0-0)を終え、残すは11月1日のメンバー発表と、17日のカナダ戦の最終調整のみ。23日にワールドカップの初戦・ドイツ戦を迎える。

 今回は上記の2戦を、戦術面を中心に振り返る。

 アメリカ戦とエクアドル戦でメンバーを総入れ替えした狙いの真意は現場しか分からないが、できる限り均等にチャンスを与えて1-4-2-3-1でのパフォーマンスを再確認したかったのではないか。これに漏れてしまった選手もいたが、後述する戦術的に試したかったものとの関係で外れてしまったのかもしれない。

 まずこのシステムに変えた狙いは何だったのか。一個人の見解だが、ワールドカップ本大会のグループステージ(GS)で対戦するドイツやスペインに対抗するための準備のように思う。アジア予選とは異なり、大国と戦うとなれば、過去のワールドカップやヨーロッパ遠征時の試合、さらには自国で行なわれたブラジル戦のように、守勢に回る可能性が極めて高い。同じくGSで対戦するコスタリカ戦では、自分たちがボールを持てる機会が増えると想定されるので、また違った準備をしているだろう。

 ドイツやスペインの攻撃は、非常に多彩で、サイド攻撃のみならず中央に人数をかけてパスワークで攻め込んでくる。アンカーを採用した1-4-3-3では、どうしてもその脇を狙われる構造となるが、この両者はともにそれがより脅威だ。3センターハーフが戻れば厚みは増すものの、そうすると今度は相手のボランチを抑えられなくなる構造ともなり、好き放題にボールを回される可能性もある。だからこそダブルボランチを採用したいと考えたのかもしれない。
 
 アメリカは1-4-3-3で、システムだけ見ればスペインと同じ。ちなみに、コスタリカも直近のウズベキスタンとの親善試合でこのシステムを試していた。

 アメリカの3センターハーフに対し、日本の前線2枚が中央にいるアダムズへのコースを切りながら、ダブルボランチは相手の2人のセンターハーフを監視し、伊東純也と久保建英の両サイドハーフが絞りながら縦パスを狙う。

 これが見事に成功したのは12分のシーンであり、25分の得点シーンは若干異なるものの、似たような形から守田英正がプレッシャーをかけて相手のマッケニーにミスパスを誘発させ、ショートカウンターから鎌田大地が決めた。

 ドイツのビルドアップは相手のシステムによって形が変わる。おそらく日本が1-4-2-3-1から1-4-4-2のように守ろうとすれば、1-3-2-5を採用する可能性が高い。そのシミュレーションもアメリカ戦でできた。
 
 アメリカが後半はメンバーとシステムを変え、1-3-2-5で来たのである。48分のように奪えたシーンもあったし、50分のように突破されたシーンもあった。総じて後半は相手にボールを持たれたものの、ドイツとの本番を考えれば、良いシミュレーションになったのではないか。当然ながらドイツはアメリカより質も上がる。より緻密に練らなければ突破されるケースは増えるだろう。

 ただ、各シーンを分析しているはずだし、特に中央を使われないためには日本のダブルボランチのポジショニングと守備強度が求められることは再確認したはずだ。

 また、守り切るために原口元気を右のウイングバックに入れる5バックをも試して守備の強化を図りながら、その直後に1-5-2-3の変更から生まれる相手とのギャップを使って三笘薫がゴールを決めるなど、収穫は多かったように思う。

 ここで取り上げ切れない事象は、冨安健洋の右サイドバックや攻撃の左サイドのローテーションなど多数あるが、テストマッチの位置付けの内容としては良かったのではないか。

 一方のエクアドル戦は、メンバーが全員入れ替わったなかで、システムを変えずにスタートした。これの理由はおそらく冒頭と同じで、W杯の対戦国を考えてのもの。エクアドルのビルドアップは、メンデスが下りて後ろを3枚にする形が多かった。これに対して日本は、アメリカ戦に比べてボランチが前に出る守備があまりできずに後退してしまった。12分や58分のシーンがそれである。

 もう1つ気になるのは、最終ラインの設定と、自陣守備からの押し上げだ。これはアメリカ戦でも森保一監督はテクニカルエリアから指示を出したシーンもあったし、エクアドル戦も例えば61分のシーンはラインの押し上げが遅い印象を受けた。これが遅いとサンドバックのような状態となりかねないし、まして大国が相手ならなおさらである。微調整は必要だろう。

 ラインが低い状態で守備をし続ければ、PKを与えたシーンのように1本の縦パスで窮地に立たされることがある。どんなシステムであっても、ボールが下がった後のラインアップはできる。90分間、これを続けられるかは課題を突きつけられた格好だった。
 
 ただテストマッチであり、課題が出ることは良い点だと思う。その一方で、この試合でも試したことはある。1-5-3-2と、2トップの一角に伊東を据える形だ。

 もし苦悩の末に伊東がFWとして起用できるとの算段を立てたかったのならば、中盤をダイヤモンド型にする1-4-3-1-2も頭にあるのかもしれない。これは冒頭の対大国を考えた時の1つの解になり得ると考える。

 1-4-3-3では3センターハーフが戻ると中央は1トップしかいなくなり、相手のアンカーやボランチ、センターバックを抑えにくくなるが、ダイヤモンド型であればそれは解決する。ところが、ウイングを主戦場とする伊東の場所がなくなる。そこで、最後の5分を使って上記システムで伊東を最前線で使うとどうなるかを見たかったのではないか。

 少し時間が短すぎて現象はあまり起こらなかったが、カナダ戦でも行なうのかは注目して見てみたい。
 
 ドイツもコスタリカもスペインも、ネーションズリーグや親善試合などで様々なチャレンジやトライをしていた。ドイツに至っては試合中のシステム変更は毎度のように行なっているし、コスタリカは9試合ぶりに1-4-3-3を試し、スペインは人の入れ替えで変化をつけていた。ここからの1か月半は、それぞれが相手国の分析を加速させる。これまでの試合で見せていない姿をどれだけ見せられるかが大事になってくる。

 特にセットプレーは、どの国も手の内を見せていないし、何をしてくるかは未知数。日本も例外ではなく、練っているところだろう。特に守備の時間が長くなるのであれば、攻撃のセットプレーを得られればそれは貴重な得点機会であり、入念な準備と対策が明暗を分ける。

 相手の3か国ともセットプレーは弱点となり得る。実際、ドイツの直近3試合は、相手のCKにおいて実に73%の割合で「先に触られて」いて、2失点している。ちなみにスペインは50%だが、同じく2失点している。コスタリカは44%で失点はないものの、相手に与えるCKの総数がドイツやスペインより1.5倍多い。
 
 CKだけ取り上げたが、FKもスローインも同様に見ていく必要がある。そのうえで、これらを詳細に、細部にこだわった分析を落とし込み、どこに蹴って誰が入っていけば日本は点が取れるのかを明確に打ち出せれば、相手がどこであろうと十分にセットプレーからゴールを奪えるはずだ。

 流れのなかの戦術的な整備と変化、そしてセットプレーの整備と狙い。これらを残りの期間で突き詰め、カナダ戦で最終調整し、悲願に向けた初戦を万全の状態で迎えてほしいものである。

【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

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