11月1日の2022年カタール・ワールドカップ(W杯)最終登録メンバー発表まで3週間。選手たちのサバイバルも佳境に突入している。森保一監督が「4年間かけてチーム作りをしてきてからのメンバー選考なので、大枠としては決まっている」とコメントした通り、26人のほとんどが9月のアメリカ・エクアドル2連戦(デュッセルドルフ)帯同組から選ばれると見られる。

エクアドル戦に先発フル出場した田中碧(デュッセルドルフ)も、もちろん重要戦力の1人と目されている。とはいえ、最終予選最大のターニングポイントとなった昨年10月のオーストラリア戦(埼玉)で値千金の先制弾を挙げ、7大会出場権獲得のキーマンとなった男にしてみれば、今現在の序列は芳しいものではない。

ご存じの通り、9月シリーズを機に、森保監督は基本布陣を[4-3-3]から[4-2-3-1]へシフト。ボランチが2枚になり、遠藤航(シュツットガルト)と守田英正(スポルティングCP)がファーストチョイスと位置づけられたため、田中碧が押し出される形になったからである。

「アメリカ戦とエクアドル戦の意味? 僕のポジションで言えば、ハッキリAとBでしょう。別にそれはしょうがないし、W杯グループリーグの3試合で出ないで終わることもあると思う。自分の立場は分かっています。でも『あとは見とけよ』という感じ。今はそれしかないです」と10月1日のアルミニア・ビーレフェルト戦後、24歳の若きボランチは目をギラつかせた。

指揮官は「2チーム分の戦力がいなければ、W杯ベスト8の壁は破れない」と考えているため、グループリーグのドイツ・コスタリカ・スペイン戦を全て同じボランチの組み合わせで戦うとは考えにくい。

その一方で、ボランチはチームの心臓。状況次第では変えづらい部分もある。ドイツ・ブンデスリーガで2年連続デュエル王に輝いた遠藤が大黒柱なのは紛れもない事実だし、今季UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)参戦で攻撃力に磨きがかかっている守田も外しづらい。この状況だと、田中は2人のいずれかをバックアップしつつ、要所要所で穴を埋めていく役割を託されるのではないか。

「僕は僕なりの覚悟ができていますし、その時が来たら集中してやればいい。ただ、W杯は実際に行かなきゃ分かんないものなんで、今から考えたところでしょうがない。次のクラブの試合に向けてしっかりやるだけなんで」と本人は良い意味で割り切っている。その前向きなメンタルが田中の強みなのだ。

デュッセルドルフは目下、ブンデス2部の5位。同じリーグで戦う室屋成(ハノーファー)が「球際の強さや激しさは凄まじいものがある。それがあまり日本では伝わっていない」とコメントしていたように、彼が個対個の戦いをベースにした荒々しい環境の中に身を投じているのは確かだ。

「強度の高い中でどれだけできるかというのは、(デュッセルドルフでやるうえで)すごく重要になるなと。それは代表でも同じ。自分にとっての大きな課題でもあると思います」と本人も難しさを口にしていた。

組織的なパス回しや連動性の高い攻撃がウリの川崎フロンターレで育ってきた田中にしてみれば、今の環境は異次元の世界に他ならない。それでも、タフな中で自分らしさを発揮し、ゴールやアシストなど明確な数字を残さなければ、海外では評価されない。それはポジションがボランチだろうが変わらない。実に難しい状況に直面しているのだ。

そんな経験が、W杯のような何が起きるか分からない大舞台で大いに生かされるはずだ。カタールはドイツのようにピッチが悪いことはないだろうが、暑さや乾燥など気象条件を含めて想定外のことが起こり得る。そこで高度な適応力を示して、ピッチで確実に仕事をしなければならない。そういった能力は川崎時代より今の田中の方が確実に高まっている。期待を持って良さそうだ。

「(デュッセルドルフにいて)、ここでどう生き残るかを今は必死に考えています。そういう意味では、すごく楽しいかって言われたら、本来の楽しさではないかもしれない。ただ、苦労してる楽しさはすごくあるんで、色んなところで成長してると思う。できることも増えているので、そこは前向きに捉えています」

本人がこう語るように、プレーの幅が広がったところを1か月半後のカタールで示すべき。オーストラリア戦で日本の流れを一気に変えたような力が田中にはある。舞台が大きくなればなるほど、大仕事ができるのもまた彼のストロングポイントだ。

どんな状況で出番が訪れるか分からないし、誰と組むかもハッキリしないが、遠藤、守田、柴崎岳(レガネス)、原口元気(ウニオン・ベルリン)のいずれがパートナーだったとしても、田中碧はチームをスムーズに機能させ、ダイナミズムを与えることが強く求められる。

長谷部誠(フランクフルト)の系譜を継ぐ背番号17の躍動感あるプレーが、日本の命運を左右すると言っても過言ではない。


【文・元川悦子】