日本を代表するハイアベレージなポリバレントプレーヤー

日本代表DF中山雄太は精度の高い左足と高い戦術理解力、そして球際の激しさとビルドアップのうまさを兼ね揃えたトータルアベレージが非常に高い選手だ。センターバック、ボランチ、左サイドバックと複数のポジションをハイレベルにこなせるのも大きな魅力といえる。

中山のような選手をサッカー界ではポリバレント(=多価、多くの働きを持つ)な選手と呼ぶ。どのポジションでも能力を発揮でき、戦術の一部としてスムーズに機能できる選手を指している。これはかつて日本代表を指揮したイビチャ・オシム監督が口にした言葉で、一気に日本サッカーに広まった。

しかし、時にポリバレントな選手は『便利屋』になってしまい、使い勝手の良い選手で終わってしまうこともある。つまりポリバレントはスペシャリストの対極にあり、悪い意味で言えば突き抜けた個、武器がない選手と言い表すこともできる。

前述したとおり、これまで多くのポリバレントな選手が「明確な武器のない自分」と言う壁にぶち当たって、そこで挫折してきた。だが、中山はその壁を突き破るほど、アベレージが高い選手だった。

躍進のきっかけは柏レイソルの『中・中コンビ』

高校時代はただの便利屋になってしまいそうな可能性があった。柏レイソルU-18の時の中山は、冷静な判断力と周りを動かすコーチングやカバーリングに長け、自己犠牲ができる選手だった。他の選手を器用に動かして、チームに規律をもたらす。そういうプレーがどのポジションで起用されても発揮できる選手だった。

センターバックやボランチで主に起用されてきたが、一方で圧倒的な高さがあるわけでもなく、強烈な球際の強さがあったわけでもない。左足のキックは素晴らしかったが、相手を圧倒するような選手ではなかった。実際に昇格を果たしたプロ1年目には思うように力を発揮できず、リーグ戦1試合出場にとどまった。

だが、ここからの中山は、ポリバレントとして生きる道のお手本を示すかのような成長曲線を描いていく。

2年目の2016年には1歳上のCB中谷進之介と『中・中コンビ』を組んで、センターバックとしてJ1リーグ21試合にスタメン出場し、左サイドバックとしても出番を得た。2017年には不動のセンターバックとして柏の守備の中枢を担い、J1リーグのベストヤングプレーヤーにも選出された。

3年目の2018年には負傷による長期離脱を経験するなど、苦しいシーズンとなったが、それでもシーズンを通して、センターバック、ボランチ、左サイドバックでその才能を大きく発揮した。

さらに冒頭で触れたように、実戦をこなすごとに激しい球際や鋭い読みと駆け引きで上回ってのボール奪取など、個で守れる技術を驚くべきスピードで体得していった。

W杯前に大きな決断。サッカーの母国で武者修行

2020年にオランダエールディビジのPECズヴォレに完全移籍すると、海外の強度に素早く順応し、アベレージをさらに高めた。東京五輪に出場も出場し、A代表としてはカタールW杯アジア最終予選を戦うメンバーにも選ばれた。

特に今年は左サイドバックとしての代表での序列が一気に上がった。中山が入ることでサイドの安定とインサイドに入って中央の守備へのサポートが増し、左足から繰り出される同サイドの縦パスや対角のパスは、日本の4-3-3を活性化させる上で重要なキーになっている。

さらに今年7月にはイングランド2部リーグのハダースフィールドに完全移籍。W杯直前での移籍はかなり勇気がいることだったが、より強度の高いリーグでプレーすることで、アベレージをさらに上げることを選んだ。

ハダースフィールドでも左サイドバックとセンターバックでプレー。ハイレベルなポリバレントたる所以をしっかりと見せている。

着実にW杯のメンバーに食い込んできている中山の強度とアベレージは、カタールの地で日本に安定感をもたらしてくれるに違いない。それだけ彼が時間と努力を重ねて引き上げてきたものは、大きな価値があるものなのだから。

文・安藤隆人


photo:徳丸篤史 Atsushi Tokumaru

FIFA ワールドカップ カタール 2022 完全ガイド by ABEMA
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