ヴァランの所属するマンチェスター・ユナイテッドは、イングランド・プレミアリーグに所属し、BIG6の一端を担う強豪だ。今夏にアヤックスで実績を残したエリック・テン・ハグを新監督に招へいするなど変革期を迎えている。テン・ハグは自身の理想であるポゼッションサッカーと、現実路線のカウンターサッカーを上手く使い分けながら戦っている。開幕からブライトン、ブレントフォードに2連敗を喫したことで一時は嫌な空気も漂ったが、その後の4連勝を飾るなど順位を上げており、変革は徐々に進みつつある。

そうした状況のユナイテッドにおいてヴァランはハリー・マグワイアらとのポジション争いを制し、センターバックのレギュラーとしてプレーしている。開幕戦こそベンチだったがその後はスタメンに定着しており、要所でチームを救うディフェンスを披露。不完全燃焼だった昨季を経て、遂に本領発揮のシーズンになりそうだ。

レアル・マドリードで数々のタイトルを獲得

フランスのリールに生を受けたヴァランは、ASヘレムスという地元の小さなクラブでサッカーを始めた。その後は地元のビッグクラブであるLOSCリールからの勧誘を断り、RCランスの下部組織に加入した。当時のランスの下部組織は現ドルトムントのベルギー代表FWトルガン・アザール、現アトレティコ・マドリードの中央アフリカ代表MFジェフリー・コンドグビアら逸材揃いだったが、その中でもヴァランのプレーは目を惹くものがあった。飛び級でU-19に昇格すると2010年11月にはトップデビューを飾り、ヴァランはさまざまなビッグクラブの注目を集める存在となった。

いち早くこの18歳の逸材を確保したのがレアル・マドリードだった。2011年夏に6年契約でレアル・マドリードに加入したヴァランは、銀河系軍団の一員として飛躍的な成長を遂げていく。2011年9月21日のラシン戦でデビューすると、その1週間後にはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)にも初出場している。最終的にこのシーズンはリーグ戦9試合の出場となったが、確かな才能を示すことができたと言えるだろう。だが、意外にもここから2シーズン程ヴァランのキャリアは停滞してしまう。当時のヴァランは負傷離脱が多いのに加え、レアル・マドリードには元スペイン代表セルヒオ・ラモスとポルトガル代表ペペという最強のセンターバックが2枚揃っており、安定した出場機会を得られなかったのだ。

ヴァランの転機となったのは2014-2015シーズンだ。このシーズンからペペの負傷が増えてきたこともあり、ヴァランの出場機会が大幅に増加した。ヴァラン自身も大きなケガをすることなく1年を戦い抜き、キャリアハイとなるリーグ戦27試合に出場して飛躍のシーズンとなった。センターバックのレギュラーとしての立場を揺るぎないものにしたヴァランは翌年以降もレアル・マドリードの最終ラインに君臨。ジヌディーヌ・ジダン体制におけるCL3連覇の立役者の一人として歴史に名を残すことになる。結局2021年に退団するまで3度のラ・リーガ制覇と、4度のCL制覇を成し遂げる最大級の成功を収めた。

そんなヴァランが新たな挑戦の地として定めたのがイングランド・プレミアリーグだった。2021年夏にマンチェスター・ユナイテッドに電撃加入を果たしている。ユナイテッドが長くタイトルから遠ざかっているということもあり、レアル・マドリードで栄光を勝ち取ってきたヴァランにかける期待は非常に大きかったのは間違いない。しかし、昨季は度重なる負傷離脱に苛まれて期待を裏切る結果になってしまった。出場すれば高いパフォーマンスは見せるのだが、そもそも出場できない試合が多く、クラブにとっては大きな誤算だったと言える。

フィジカルとスピードで勝負するセンターバック

恵まれた体格とトップクラスのスピードを兼ね備えており、あらゆるアタッカーを封殺することができるセンターバックだ。失点に直結するミスも少なく、プレーの安定感が高いのも特徴の一つである。それに加えてボールテクニックも高く、ロングフィードで攻撃の起点になるほか、スペースがあればドリブルで持ち運んでいく姿勢を見せる。

一方でディフェンスリーダーとして周囲を動かす守備は得意ではなく、自分が相方の指示によって動かされることで実力を120%発揮することができるタイプの選手だ。実際にレアル・マドリード時代にはセルヒオ・ラモスが相方にいる時といない時のパフォーマンスの差が指摘されることも多かった。今季はラモスのようにリーダーシップを発揮できるリサンドロ・マルティネスが隣でプレーしていることもあり、マドリー時代同様に高いレベルのパフォーマンスを披露することができている。

直前にケガも無事にカタールW杯出場メンバー入り

ヴァランは2013年3月に19歳の若さで代表デビューを飾った。その後は主力に定着し続けており、2014年のブラジルワールドカップ、優勝した2018年のロシアワールドカップでも全試合で先発フル出場している。

タレント王国であるフランスは毎年のように新たな才能が誕生しているが、その中で現在も不動のレギュラーであり、監督のディディエ・デシャンから確かな信頼を得ている。FIFAワールドカップ カタール2022(カタールW杯)直前には太ももを傷めて、W杯欠場が噂されていたが、無事に招集された。2連覇に向けての活躍が期待されている。

文・加藤亮汰