11月23日のカタール・ワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ戦まで約1週間となった15日、ドーハに三笘薫(ブライトン)を除く25人が集合。ようやく本番モードでの調整がスタートした。

 彼らは17日に大会前最後のテストマッチ・カナダ戦に挑むことになるが、脳震盪からの回復途上にある遠藤航(シュツットガルト)の欠場が決定。守田英正(スポルティング・リスボン)も左ふくらはぎに違和感を訴えており、大事を取って回避することが決まった。

 浅野拓磨(ボーフム)と板倉滉(ボルシアMG)が負傷離脱から戻り、これからという時に主力級のアクシデントが続き、森保一監督も頭を痛めていることだろう。

「今、怪我人とかも多いけど、ネガティブな要素を忘れて、開き直って戦うことも大事だと思います」と10番を付ける男・南野拓実(モナコ)は前向き思考の重要性を改めて強調。自身とチームの状態を可能な限り、引き上げていく構えだ。

 ご存じの通り、南野は2018年9月の森保ジャパン発足時からチームの軸を担い続けた数少ない選手。2020年からは当初10番を背負っていた中島翔哉(アンタルヤスポル)からエースナンバーを引き継ぎ、最終予選も主力として戦い抜いてきた。

 しかしながら、今年9月の欧州遠征2試合では、メインのアメリカ戦に出られず、サブ組主体のエクアドル戦に出場。久しぶりのトップ下に入ったが、ほぼ見せ場なく終わり、「4年間、このチームでやっているし、もう言い訳にはできない。チームを勝たせられるような選手になるだけですね」と悲壮感を露にしていた。
 
 巻き返しを図るには、今夏赴いたモナコで実績を残すしかない。そう本人も決意を固めて10~11月を過ごしたはずだ。実際のところ、出番が劇的に増えたわけではなかったが、10月16日のクレルモン戦、30日のアンジェ戦、11月6日のトゥールーズ戦の3試合で先発。動きにキレと鋭さが出てきた印象だ。

 とりわけ、トゥールーズ戦では、立ち上がりから積極的にシュートを打ちに行き、素早い動き出しから敵の背後を取るプレーも披露。ロシア代表MFアレクサンドロ・ゴロビンのシュートのこぼれ球に反応して惜しいヘッドもお見舞いした。

 これらは惜しくも得点につながらなかったものの、8~9月とはコンディションが見違えるほど改善されていた。そして後半には左からのクロスでブリール・エンボロの2点目を巧みにアシスト。復調傾向を大いにアピールしてみせたのだ。

「良いプレーができている時の自分は、外から見て躍動感があるなって感じの動きやチャンスに絡んでいく姿勢を出せている。自分が見えているスペースに走りこめたり、走り続けられたり、ボールが来た時に迷わずシュートに行けたりってところが感覚的に良くなっていると思います」

 こう話す南野の表情は、9月シリーズの時より確実に明るかった。それだけ自信と手応えを取り戻したということだろう。新天地・モナコの強度の高いトレーニングに適応し、ハイレベルなフィジカルを体得できたという意味で、南野は一段階上のステージに飛躍したと見ていいのではないか。

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 あとは、目に見える結果を残すことが大切なのだ。

「個人的にはカナダ戦に出たら、ゴールとかアシストといった結果を出したいと思っているし、チームとしてもただの練習試合と捉えるのではなく、自分たちの力を証明して、ワールドカップ初戦を迎えたい。そういう気持ちはみんなあると思うので、全力でプレーしたい」と彼自身、本番前最後のチャンスに持てる力の全てをぶつけるつもりだ。

 南野の代表でのゴールは、2月の最終予選・サウジアラビア戦が最後。森保ジャパン最多の17得点を叩き出す点取り屋も、ここ1年は足踏み状態が続いている。

 ゆえにW杯直前の今、停滞感を打破したいところ。それが逆転スタメン奪取にもつながるかもしれない。

 目下、トップ下のファーストチョイスは今季欧州12得点・3アシストの鎌田大地(フランクフルト)というのは誰もが認める事実だろう。ただ、南野が非凡な決定力を取り戻してくれれば、試合途中、あるいはターンオーバーで出る機会も増えてくるはずだ。
 
 一方で、左MFでのスタメンの可能性もないとは言えない。というのも、ドイツの右サイドにはヨナス・ホフマン(ボルシアMG)やジャマル・ムシアラ(バイエルン)ら圧倒的な個の打開力を備えたタレントがひしめくからだ。彼らを封じるためには左サイドバック1人では足りない。守備力の高い左MFのサポートが不可欠なのである。

 現時点で久保建英(レアル・ソシエダ)が候補者の最右翼と目されるが、最終予選では左サイドに入って献身性を示した南野の起用を森保監督が考えないはずがない。そういった可能性も視野に入れつつ、泥臭くアグレッシブな10番には貪欲かつガムシャラにポジションを取りにいってほしいのだ。

「今までどんな人が代表の10番を付けてきたかというのは自分もよく分かっているし、責任のある番号だとは思う。でも自分らしいプレーをしたい。特に何かを変える必要はないし、できることをやるだけかなと思います」

 良い意味で割り切りを見せた南野。ここまでの迷いや苦悩を振り切って、本来の自分に戻った今、南野は一体、何を見せてくれるのか。紆余曲折の末につかんだW杯で爪痕を残すべく、まずはカナダ戦で布石を打ってほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)