W杯に関する日本代表には、ある“都市伝説”まがいの説が存在している。
 
「準備段階で苦しんだ方が、本大会では結果を残せる。自惚れが消え、より謙虚に戦える」
 
 日本代表がW杯でベスト16進出した2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会、2018年のロシア大会は、いずれも大会直前のテストマッチで負けやドローだらけ。一方でグループステージ敗退を喫した2006年のドイツ大会、2014年のブラジル大会は、いずれも直前のテストマッチで期待を抱かせる結果と内容だった。それが根拠になるという。
 
 歴史的な傾向としてはそうだろう。事前に膿を出し尽くし、本番に向けて改めてチームを引き締めるという流れも理解はできる。他国を見てもW杯のようなメジャー大会は、それまでの流れよりも、その時点の最適解を見つけ出し、運用することが重要だ。
 
 しかし、昔と今では監督、選手、戦術、環境、対戦国の全てが違う。そもそも日本代表は優勝候補に挙がった経験がなく、基本的にはいつだってジャイアントキリングを狙う立場のはずだ。
 
 だから11月17日のカナダ戦を現地ドバイで取材した際、報道陣から「南アフリカやロシアみたいな流れになってきたね」といった声が飛んだり、長友佑都が試合後に「過去の3大会を振り返っても、W杯前の試合で良くないほうが良い結果になるのを僕は2つの大会で見ている」と語ったりすることに、やや違和感を覚えた。
 
 実際、ブラジルW杯を経験している権田修一は、試合後の取材でそのことについて聞かれると、苦笑いしながらこう答えた。
 
「ブラジル大会は確かに直前の結果が良かったですが、『俺ら強いよ、大丈夫だよ』って思っていたわけではないので。僕らが満足していたなら問題ですけど、決してそういう印象はなかった。だから直前の結果が良い悪いというのは、本当に難しいところ。いずれにしてもここからは、海外組もようやく入ってきましたし、残り1週間弱はより洗練された研ぎ澄ました準備になっていく。本番モードになっていくこと思います」
 
 権田が言うように、カタールW杯に向けては選手のコンディションやチーム合流日がバラバラで、森保一監督はかなり難しい舵取りを強いられている。カナダ戦は個々の状態や調子のチェックが最大の目的だったはずで、その意味で膝の怪我から復帰直後だった板倉滉と浅野拓磨、最近の代表戦ではキレを欠いた柴崎岳、A代表経験の浅い相馬勇紀などがポジティブなパフォーマンスを見せたことは収穫だった。
 
 その一方で南野拓実は不振から抜け出せていない印象なうえ、堂安律や山根視来も不安定で、セットプレーは攻撃も守備も相変わらず課題だらけ、秘策になりそうな3ハックもやはり短時間しか試せなかった。さらに試合終盤にはPKを与えて1―2の逆転負けを喫している。収穫も課題も見えたなか、総合的な収支で考えればネガティブな試合と言える。
 
 日本代表の歴史を考えれば、この流れはW杯での躍進を予感させる内容と結果だ。しかし、それを森保ジャパンにも当てはめるのは暴論だろう。目線は歴史ではなく現在に向けるべきだ。長友で言えば、「カナダ戦を良い教訓にして、W杯へのエネルギーに変えたい」というコメントの方が真理を突いているし、その点にこそ注力すべきだと思う。
 
取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)