いよいよ開幕が迫るカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はMF遠藤航(シュツットガルト)だ。

――◆――◆――

 2018年のロシア・ワールドカップは出番なし。だが今では「日本代表の心臓」へと飛躍した遠藤航。彼ほど森保ジャパンの4年間で劇的な変貌を遂げた選手もいないだろう。

「(前回大会の直前合宿地の)ゼーフェルトでは、誰も僕に興味なかったですからね(苦笑)。ロシアには行ったけど、出られない悔しさを味わった。そこでハセさん(長谷部誠/フランクフルト)が代表引退されて『じゃあ誰がボランチやるんだ』って話になって、自分が名乗り出て定位置を勝ち取り、不安を一掃してやろうと思ったのが4年前です。

 その時期にシント=トロイデンへ行って、1年後にシュツットガルトに来たけど、自分が思い描いたカタール・ワールドカップに出るという目標を達成しつつあるのは嬉しい。でもまだ試合に出たわけじゃないし、結果を残したわけじゃない。ここからが本番です」

 9月の欧州遠征時、遠藤はそう語って目を輝かせていた。

 確かに、森保体制初陣となった2018年9月のコスタリカ戦の際、遠藤は欧州での一歩を踏み出したばかりだった。湘南や浦和では3バックの一角で起用されることが多く、ロシアW杯の代表では右SBのサブに入ることもあったが、「ボランチで勝負したい」という強い決意を持って、ベルギーに赴いたのだ。
 
 その言葉通り、新たな環境で結果を出し、2019年夏には当時ドイツ2部のシュツットガルトへ移籍。この頃の代表は柴崎岳(レガネス)と遠藤が鉄板ボランチを形成していたが、W杯2次予選の序盤は遠藤が新天地で試合に出られなかったこともあり、コンディションや試合勘が不安視された。

 けれども、本人は「いろんな壁に当たりながら、それを克服していって今がある。今回の出られない経験もまた経験」とまったく動じることなく現状と向き合っていた。

 4児の父親らしい落ち着きと冷静なスタンスが奏功し、11月以降はシュツットガルトで定位置を確保。1部昇格の原動力となる。翌20-21シーズンからはキャプテンに就任。デュエル勝利数トップに輝くという偉業も達成する。

 ドイツに赴いて1年半。遠藤は世界に通じるボランチに上り詰め、日本代表の絶対的主軸の座を射止めたのである。

【W杯PHOTO】いよいよ開幕!カタールに集結する各国サポーター!
 
 東京五輪のオーバーエージ枠も当初、ボランチは柴崎が最有力と言われたが、森保監督は遠藤を選出。それだけ彼の重要性が高まった証だった。

 田中碧(デュッセルドルフ)とのボランチコンビもスムーズに機能し、攻守両面のダイナミズムをもたらしていた。目標のメダルこそ逃したものの、遠藤は自身の存在価値を強烈にアピールした。まさに彼は不可欠な大黒柱となったのだ。

 こうしたなか、W杯最終予選に突入。序盤の日本は大苦戦したが、「自分たちのやるべきことをやれば問題ない」と本人は一切、迷いを見せなかった。頼りになる男が中盤の要として躍動し続けたのだ。
 
 今年1~2月の中国・サウジアラビア2連戦では、吉田麻也(シャルケ)から代行キャプテンの責務も託され、それを遂行。紆余曲折の末に日本をカタールへと力強くけん引したのである。

「チームの調子が悪くても引きずらず、傑出した問題解決能力を発揮できる人間。常に動じずに物事に取り組める冷静さが航の強みなんです」と湘南時代の恩師・曺貴栽監督(現・京都)も強調していたが、卓越した人間力とインテリジェンスは特筆に値する。

 その能力があったからこそ、20代後半で劇的な進化を遂げた。遠藤の真価を証明するとしたら今しかない。脳震盪の影響が心配されるが、ドイツ撃破の急先鋒となるべく、まずはコンディションを引き上げ、タフで逞しい姿をピッチで示してほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)