2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■論点の多いワールドカップ

 いよいよ今夜始まるカタール・ワールドカップ。イスラム圏での初めての開催というだけでなく、初めての11月から12月にかけての大会、準備期間中の建設労働者の人権問題、ロシアの軍事侵攻下の大会、さらには「ポスト・コロナ(あるいはウイズ・コロナ)」の最初の世界的イベント…。ピッチ外でこんなに論点の多いワールドカップも珍しい。

 だが開幕直前のいま、私がいちばん興味をもっているのは、「オフサイド半自動判定」だ。ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)システムはたしかに判定ミスを減らしたかもしれない。しかし同時に、いつも私たちをいらつかせる。時間がかかり過ぎるのだ。

 特に得点後のチェックの長さ、間の抜けた待ち時間には、本当にうんざりだ。ゴールというサッカーで最も神聖なカタルシスの瞬間を台無しにしてしまうことが、果たして進歩なのかどうか、私は少なからず疑問に思っている。

 しかし時代の流れを止めることはできない。あれほど「人による判定」にこだわっていたジョゼフ・ブラッターが2014年ブラジル大会に向けて「ゴールライン・テクノロジー(GLT)」の導入を認め、ブラッター失脚の後を継いだジャンニ・インファンチノは2018年ロシア大会のために強引に未成熟のVARを使った。

■新登場する「SAOT」

 そして今回の「オフサイド半自動判定」である。英語では「Semi―Automated Offside Technology」。何でも略称にしてしまうFIFAだから「SAOT」とでも言いそうなものだが、まだそうした表現は聞かない。

 専用の12台のカメラを使い、選手の正確な位置を1人につき29もの体の部位で、しかも1秒間に50回も測定し、同時に、発信機を仕込んだボールの位置とキックなどの衝撃を与えられた瞬間を、こちらは1秒間に500回も測定する。この2つを組み合わせることで、オフサイドかどうかが、ほんの数秒で判明するという。

 これまでのVARでは、映像をコマ送りしながらキックの瞬間を特定し、その瞬間の映像にオペレーターが線を引く形だった、その作業には平均70秒もの時間を要していた。それがいわば瞬時に行われるという、驚くべきシステムなのである。

 これによって、得点が決まった瞬間に、少なくともオフサイドだったかどうかというチェックは、まったく時間がかからなくなる。おまけに、上記のデータを使い、時を置かずに3Dアニメーションが作られ、場内の大型スクリーンやテレビ中継に流されるという。

 GLTからVAR、さらに「SAOT」へと、サッカーの判定テクノロジーは三段跳びのように飛躍した。ではその次は? 2026年にアメリカ、カナダ、メキシコの3か国で行われる大会では、もしかしたら副審はいなくなるかもしれない。

 少なくとも、オフサイドもタッチアウトもテクノロジーが担当し、副審はタッチライン沿いに機械のように走ることなど求められず、かつての「追加副審」のようにプレーをみやすいところにゆっくり移動すればいいようになるのではないか。もちろん、もうフラッグなど持つ必要はない。

 カタール対エクアドルの開幕戦で、後藤さんは「SAOT」をどう見るのだろうか―。