ついに開幕したカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はFW上田綺世(サークル・ブルージュ)だ。

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「鹿島でやっている頃よりは強度が高いなかで普段やってるんで、今回の(カナダ戦の)プレーは高い強度のなかで、できた実感はもちろんありました。だけど、1トップで勝たせるにはもっとシュートを打たないといけない。もう一回り成長が必要だなっていうのは感じた。でも、手応え自体は悪くないです」

 17日のカナダ戦で後半から出場した上田は、前線で身体を張って起点を作りながら南野拓実の決定機をお膳立てするなど、力強さが増した印象を残した。

 鹿島時代は多彩な得点パターンで敵を凌駕する“ザ・ストライカー”というイメージが強かったが、4か月間のベルギー生活で攻守の強度は高まり、屈強なDFを背負ったポストプレーなど、これまでとは違った能力を示すようになった。確かな成長を短期間で示したことで、ワールドカップ(W杯)本番での活躍の場が広がりそうだ。
 
「FWは一発で人生が変わる? そうですね。その一発を出せたらいいかなと思います」と本人も野心満々。潜在能力の高さと日本人離れしたスケール感を大舞台で押し出し、満を持してエースに躍り出る構えだ。

 森保一監督も上田のポテンシャルを早い段階から評価。法政大在学中から東京五輪代表の主力FWとして育ててきた。2019年のコパ・アメリカに帯同させたのも、その一環。初戦のチリ戦から上田は次々とゴール前に抜け出し、決定機を迎えたが、最後のところで決めきれない。

 結局、自身は無得点に終わり、チームも1次リーグ敗退。世界基準を目の当たりにした彼は、直後のユニバーシアードを経て、法政大サッカー部を退部して鹿島入りを決断。「近い将来には海外へ行きたい」と野心を口にした。

 鹿島では最初の2019年後半こそ、プロの壁にぶつかる形になったが、2020年からは3シーズン連続二桁ゴールをゲット。名実ともにエースに上り詰める。特に今季は半年間で10ゴールとハイペースに得点を積み重ね、J1得点王も射程圏内に入っていた。

 だが、本人は悲願だった海外移籍を決断。7月にはベルギーへ赴いた。
 
「(Jリーグで)20点取って得点王になったとしても、ワールドカップに出られるわけではない。海外でも活躍できるクオリティがないと活躍できない」とキッパリ断言。カタールW杯が遠のくリスクも覚悟して、新たな環境に飛び込む決意を固めたのである。

 とはいえ、上田のように味方との連係・連動で活かされるタイプのFWが、異国ですぐ結果を出すのは難しい。屈強で大柄なDFとの駆け引きも含め、適応にやや時間を要し、本人も最初の壁にぶつかった。

「まだ模索している段階。環境とかサッカーのスタイルに順応していくところにトライしていますし、まだ自分が何かを勝ち取れたかを言えるわけではない」と9月の欧州遠征時にも難しさを吐露していた。

 それでも「言葉も通じず、環境も強度も全く違うなかでプレーすることは、自分にとってかなりの経験値になっていると思います」と非常に前向きで、鹿島時代より強いギラギラ感を押し出した。
 
 飽くなき向上心が結実し始めたのは、それ以降。11月までの2か月間で6ゴールを固め取りし、今回の26人枠にも滑り込み。今大会では重要な役割を託されそうだ。

「ベルギーで調子が良いから、こっちでも同じようにできるとは僕は考えていません。違うチームに入って違うポジションをやるということで、プレー自体も別のものになると思うんです。

 ただ、高強度のなかで出せるパフォーマンスは、日本にいた時より少なからず上がっている。そのうえで、自分の特長をチームの戦術に乗っけられたらいいのかな」とドーハ合流直後に語っていたが、カナダ戦でその一端が垣間見えただけに、本番への期待は高まる一方だ。

「自分はFWなんで本質は点を取ること。そこは絶対にやっていきたい。チャンスは逃さないようにしたいし、動き出しの武器も出したい。そこはもしかしたら戦術やセオリーを破っても、出すタイミングが出てくるのかなと思います」

 力を込める上田には、このタイミングで一気に抜け出しそうな勢いがある。

 鹿島の偉大な先輩・柳沢敦や小笠原満男に「今まで見てきた選手の中で、一番ヘディングが上手い選手」と評された強みも活かしつつ、彼には必ずW杯でゴールを奪ってほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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