サッカー日本代表が新たな扉を開いた。23日に行われたカタールワールドカップのグループステージ初戦でドイツ代表に2-1で逆転勝利を収めた。

 序盤から劣勢に立たされた日本代表はPKでドイツ代表に先制を許したが、0-1のまま45分間を耐え抜いてハーフタイムに突入。後半開始からシステムを3バックに変更し、75分にFW堂安律が同点ゴールを奪う。

 そして運命の時は83分に訪れた。DF板倉滉からのロングパスに抜け出したFW浅野拓磨が、見事なコントロールでゴール前に抜け出して右足を一閃。名手マヌエル・ノイアーの頭上をぶち抜く強烈なシュートを叩き込んだ。

 スタジアムに集まったドイツサポーターを完全に黙らせる劇的な逆転ゴール。途中出場していた浅野がサムライブルーを歴史的な金星に導いた。日本サッカー史上初のドイツ代表戦勝利のみならず、ワールドカップで初めての逆転勝利となったのである。

「最初はオフサイドかなという戸惑いもあったので、特に決めた瞬間は喜べなかったですけど、ゴールということが分かってからは『やったぞ』という気持ちが最初に来ました」

 殊勲の逆転弾でチームに歓喜をもたらした浅野は「今日の試合に関してはヒーローになれたかな」と、万感の思いを口にした。

「信じてくれてた人のために僕は準備してきましたし、何よりも自分のために準備してきた。この4年間、いろいろな声を耳にしたし、目にしたし、感じることもありましたけど、そんなことを無視してやってきてよかったなと思います」

 4年前のロシアワールドカップでは最終候補まで残りながら、怪我のために本大会のメンバーから漏れることとなった。夢見続けたワールドカップの舞台に立つため、たくさんのものを犠牲にして努力を続けてきた成果が、日本代表を歴史的な勝利に導くゴールという形で実った。

「(板倉)滉がボール持った瞬間に、『あ、これ来るな』と思いました」

 直感を信じて動き出した浅野の足もとに、板倉からイメージ通りのパスが届いた。同じ時期にひざの大怪我を負い、カタールワールドカップ出場が危ぶまれながら懸命にリハビリを続けてきた同志とのホットラインが開通した瞬間だった。

 浅野と毎日のように顔を合わせてリハビリをしてきたからこそ、通じるものがあったのかもしれない。「僕ら、怪我してから意思疎通できているのかな」と語った浅野に対し、板倉は「リハビリを一緒にしているからかわからないけど、『よく目が合うね』って。あの時、遅れたかと思いましたけど、拓磨くんが動き出したのが見えたので迷わずいいボールを届けたいなと思いました」と返す。お互いの意図がピッタリ合ったからこそ生まれたゴールだった。

「(ロシアワールドカップ出場を逃した)4年前から1日1日、今振り返っても『あの日、ああしとけばよかったな』ということは1日もない。(ひざの)怪我をして、それからもいろいろなこと目にしたし、耳にしましたけど、自分のことを信じてくれる人たちがいたからこそ準備してこられた。今日、結果が出て、(自分の存在を)みなさんの目に焼きつけることができたので、よかったかなと思います」

 浅野に対しては、ピッチ上のパフォーマンスとは無関係な批判を浴びることも多くあった。そういった心ない声に対し、ドイツ代表戦で日本代表に「新しい景色」を見せるゴールで一発回答。改めてチームにとって重要な存在であることを証明した。

 では、ドイツ戦の勝利は奇跡なのか? あるいは必然なのか? 浅野はこう答える。

「僕だけに限らず、ここにいる選手も監督も、それ(ドイツに勝つ)だけのために準備してきたので、全て必然だと思いますし、逆に言えば全て奇跡だと思います。僕が怪我をしても、怪我をしていなくても、メンバーに入っていなかったら今日という日はない。全てがつながっているんだな、と」

 4年前のロシアワールドカップ出場を逃した瞬間から「ただただ準備してきたことが今日の結果につながっただけ」。まだ日本代表は何も成し遂げておらず、グループステージ突破も決まっていない。初戦の勝利に浮かれることなく、「準備」を続けなければドイツ代表に勝ったことの意味は跡形もなく消えてなくなってしまう。

(取材・文:舩木渉)

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