日本代表の“ドイツ・スペイン撃破”で沸いたカタール・ワールドカップ(W杯)も、11月18日のファイナルで閉幕する。国内では森保一監督の続投が早くも有力視されているが、4年後のベスト8入りへの議論がまだ十分でないという懸念の声もある。

「勢いで続投を性急に決めるのではなく、日本サッカー協会技術委員会の専門家などが冷静に状況を見極め、いろんなプランを話し合ってほしい」と願うのが、2010~16年に同技術委員長を務めた霜田正浩氏(来季から松本山雅FC監督)だ。

「まずドイツとスペインに勝利したという結果は本当に素晴らしい。森保監督や選手たちには敬意を表したいと思います。技術や経験値、ボール支配力に秀でる両国に勝とうと思うなら、日本は守備に軸足を置いて戦うしかない。

 今回は堂安(律)、浅野(拓磨)、三笘(薫)といった鋭い槍のような存在が何人かいて、彼らのカウンターの精度が高かったため、後半勝負で仕留めることができたと見ています」と改めて賛辞を贈る。

 短期決戦のW杯では、やはりチーム全体が戦い方を共有することが最重要ポイントだ。超守備的戦術を採った2010年南アフリカW杯の岡田武史監督、可能な限り主導権を握りながら敵を追い詰めた2018年ロシアW杯の西野朗監督と、成功した大会では全員が同じ方向を見て一枚岩で戦っていた。
 
 今回のカタールW杯も同様で、強豪相手に20%前後しかボールを持てなくても、耐えて数少ないチャンスを仕留めるという共通認識ができていた。それが“死の組”を1位通過できた最大の要因だと霜田氏は見ている。

「攻撃的か守備的かではなく、『どう勝つか』という意思統一が確実にできていた。そこは日本人指導者の強みです。選手もベテラン・中堅・若手とバランスが取れていたし、国際経験豊富な人材が増えて、いろんな考え方を理解できるようになった。結果として誰1人、文句を言う人間がいなかった。そういう26人をしっかり見極め、選んだ森保監督の成果でもあると思います」

 ドイツ、スペイン、イングランドなど世界最高峰リーグでしのぎを削っている人材が増えたこともプラスに働いたのは確かだ。「今回の選手層は過去最高」と遠藤航も話していたが、そこは霜田氏も賛同する部分だという。

「今回の26人は欧州組が19人。4年前、8年前よりトップリーグで活躍している選手が増え、自信を持って強豪と対峙できるようになったと実感しましたね。なかでも三笘なんかはプレミアリーグで見せているのと全く同じパフォーマンスをワールドカップで発揮した。板倉(滉)や遠藤はドイツ代表入りできるくらいの質を示したと感じます。大切なのは日頃のクラブでの実績と経験。それを再認識した大会だったのではないかと思います」
 
 このように日本は健闘したが、結局はラウンド16でクロアチアに敗れて大目標だった8強入りを逃している。森保監督は2021年夏の東京五輪でもメダル獲得を公言しながら4位に終わっているし、カタールW杯の最終予選序盤戦も2敗と崖っぷちまで追い詰められている。

 その事実も忘れてはいけない。こうした4年間の課程や結果も踏まえつつ、日本の現在地をしっかりと確認・検証していくことも、今後に向けて必要なステップだと言っていい。

「日本に勝って4強入りしたクロアチアを見ると、ルカ・モドリッチを筆頭にテクニシャンが多いし、ビッグクラブでプレーしている選手も多く、個々の力が非常に高い。チームとしてもボールを保持しながら攻めることも、守備ブロックを固めて守ることもできる。対峙する敵によって戦い方を変化させられるのが強みです。

 そういった戦い方の幅は、今の日本にはまだないと言わざるを得ません。クロアチアをお手本にして、日本もプランA・B・Cとバリエーションを持てるようになることが、8強への近道だと考えます」と霜田氏も強調する。

 森保監督の続投は、このレベルに到達する最適解なのか……。そこは議論の分かれるところ。霜田氏が技術委員長を務めた2010年も「超守備的スタイルのままでいいのか」という壁にぶつかったが、そこで岡田監督続投を選ばず、アルベルト・ザッケローニ監督の招聘に動いた。日本はまだまだ外から学ぶことがあるという考えが根強かったからだ。
 
「自分も指導者なので、岡田さんや西野さん、森保さんの素晴らしさはよく分かります。ただ、日本人がよりインターナショナルになるためには、戦い方の幅を持った外国人監督に来てもらったほうがいいと2010年当時は考えました。

 結果的に2014年ブラジル・ワールドカップでは結果が出なかった。その後のハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチ両監督もうまく行ったとは言えません。それでも、ビジョン自体は間違っていなかったと考えています。

 結束力や一体感といった側面を考えれば、日本人監督が続けるのが一番良いと思いますが、選手たちの外国語力やコミュニケーション能力も上がっている。あまり国籍にこだわらないほうがいいというのが僕の考え方です」
 
 自身の経験を踏まえながら意見を口にする霜田氏。そんな彼から見て、仮に森保監督が続投した場合のメリットはどこにあるのか。

「一番のメリットは、過去4年間の経験値を全て次の4年間に活かせることでしょう。主要選手の個性や特徴も十分理解していますし、信頼関係も築けている。JFAで一緒に働いている大岩剛監督と協力しながらパリ五輪世代の抜擢もしやすくなると思います。

 A代表と五輪代表は兄弟のようなもの。両方のチームが選手を共有する必要もありますから、森保監督が東京五輪と今回のA代表監督を兼務したわけです。なので、次も大岩監督がA代表のスタッフに入るような形にならないといけないし、しっかりした体制を作って強化を進めていくことが重要になります」
 
 一方で、日本人体制が続けば、欧州トップの指導メソッドや戦術からやや遠のく恐れがある。日本サッカー界は、選手の国際化は急ピッチで進んでいるが、指導者のほうは遅れを取っている。その差をどう埋めていくのかは非常に大きな課題。だからこそ、外国人監督の抜擢論も完全には消えていないのだろう。

「ワールドカップのベスト8入りのレシピはありませんし、長い時間をかけてハードルを越えた国が多い。どうすればいいかというのは本当に難しいですが、現状を冷静に見極めることが重要。できたこと、できなかったことをきちんと評価してから、決断してほしいと願います」

 反町康治技術委員長らJFAの幹部はどのような判断を下すのか。その動向を冷静に見守りたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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