もしあのまま負けていれば、GK権田修一のワールドカップデビュー戦は苦い思い出として記憶されることになっていたはずだ。
だが、勝った。サッカー日本代表は23日に行われたカタールワールドカップのグループステージ初戦でドイツ代表に劇的な逆転勝利。権田のファウルで献上したPKにより1失点を喫したものの、後半に2点を奪ってスコアをひっくり返し、2-1で世界的強豪国に土をつけた。
「僕がPKを与えたことでチームとしてはプランが少し狂っちゃいましたけど、ロースコアで推移して、僕らがしっかり最後まで走り切れればチャンスがあるとみんなで話していました」
ドイツ代表に翻弄されていた前半の31分に、悪夢のような瞬間が訪れた。権田はサイドチェンジのパスを受けて飛び出してきたDFダヴィド・ラウムをペナルティエリア内で倒してしまい、相手にPKを与えてしまう。
それをMFイルカイ・ギュンドアンに決められ、ドイツ代表に先制を許した。前半の展開を考えれば、そのまま点差を広げられて負けていてもおかしくなかっただろう。だが、後半にシステム変更や選手交代で流れを引き寄せて逆転勝ち。その中で金星の立役者の1人となったのが、前半にPKを献上していた権田だった。
70分から71分にかけてMFヨナス・ホフマンやMFセルジュ・ニャブリのシュートを4連続でストップし、さらなる失点の危機を阻止。超絶セーブ連発でチームを救うと、そこから日本代表の勢いが増して75分の同点ゴールや83分の逆転弾につながった。
「もう必死ですよね。シンプルにもう止めるしかないじゃないですか。どういう状況であっても、枠に飛んできたシュートを止めることしか僕の存在意義はない。いま、ダン(シュミット・ダニエル)が通りましたけど、チームとしてボールポゼッションをやりたくて、ポゼッションに長けているGKもいて、その中で僕を使ってもらっている意味は、やっぱり最少失点で(抑える)ところ。やっぱりアジア最終予選からずっと使ってもらっている中で、そこが僕の存在意義なので。だからもう必死です」
権田は決して1人で孤独に戦っているわけではない。26人がチーム一丸となって勝利を目指しているからこそ、最高のパフォーマンスを発揮できる。PKを献上しながらも、自らのセーブで試合の流れを変えて日本代表に勝利をもたらしたことで、権田はドイツ代表戦のマン・オブ・ザ・マッチに選出された。
「GKのセーブで流れが……と言ってもらえるのはGKをやっていて嬉しいんですけど、でもやっぱり11人じゃ勝てない。今日は日本代表が26人で戦ってるということが証明できた試合になってよかったです」
初出場だった2014年のブラジルワールドカップでは出番がなく、今大会は8年越しでピッチに立つチャンスを得ることができた。権田にとってもワールドカップデビューの特別な試合で日本サッカーの新たな歴史を作り、自らも大きな一歩を踏み出した。
「本当はダメだと思います。若い時に呼んでもらったら、本当はその次の大会も行かなきゃいけないじゃないですか。それは『日本のGKのレベルが……』と言われる要因の1つだと思うし、そこに関しては責任を感じています。本当は2018年のロシアワールドカップも自分が行かなきゃいけなかったとは当然思っているので。いろいろなことがあって今はこうなってますけど、まだ33歳なので、ここからまた積み重ねていければいいかなと思います」
グループステージ初戦に勝利したことで、日本代表はベスト8進出という目標に一歩近づいた。「僕らは『新しい景色』を見るためにここに来ている」と決意を新たにした権田は、コスタリカ代表戦やスペイン代表戦でもチームを勝利に導けるか。どんどん勝ち進んで日本と世界との距離を測るためにも、守護神の活躍は不可欠だ。
(取材・文:舩木渉)
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