【専門家の目|金田喜稔】「惨めなサッカーを強いられた」前半から大胆采配で一転

 森保一監督率いる日本代表(FIFAランキング24位)は、11月23日にカタール・ドーハのカリファ・スタジアムでカタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第1節でドイツ代表(同11位)と対戦。W杯優勝経験国に対して2-1の逆転劇を演じて大金星を挙げた。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏がドイツ戦を振り返り、前半に「惨めなサッカーを強いられた」日本が、森保監督の「大胆かつ図太い采配」で息を吹き返したと称賛。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 ドイツ戦の前半は、日本のプレッシングがハマらずいいように振り回される結果となった。むしろよく1失点で凌いだと評価したいぐらいの内容だった。

 日本は相手に寄せにいけないし、サイドに追い込むこともできない。連動してプレッシングをかけるけれど、ドイツもお見通しだから全く守備の網にかからない。特に前半は相手GKマヌエル・ノイアーも上手く使って日本のプレスを回避していた。

 あれをやられたら特に日本のアタッカー陣は守備で疲弊していくし、実際に前田あたりは相当エネルギーを消費したと思う。ボールを取りにいく場所も時間もタイミングもなく、ずっとボールを回されて、好き勝手にやられた前半だった。

 救いは失点がPKのみだったことだ。ドイツ側には、2点目を取れば、あとはパスを回してそのまま終わりという雰囲気があったし、実際にそれぐらいの差を感じた前半だった。そんな雰囲気でドイツは後半に入ったと思うし、勝つイメージしかなかっただろうね。

 森保監督の大胆かつ図太い采配が際立った。後半早々に3バックシステムへ変更して、さらにそこから攻撃的な選手を次々投入する森保采配は今まで見たことがない。正直、「え?」と驚く采配だった。

 1点取りに行く時、こういうスタイルもあるというのはチーム内で共有されていたと思うし、実際に試合でもテストはしていた。ただここまで攻撃的な選手を並べるのには心底驚いた。前半にあんな惨めなサッカーを強いられたなか、これで終われないというのがあったんだろう。それは監督やスタッフ、選手も同じ気持ちだったと思う。

森保監督の采配、すべてを出し切るという選手の思いがこの結果を生んだ

 いいようにやられた前半があった分、全員が一丸となって「絶対に負けない」「まずは1点を取る」という一体感が生まれた。いつでも点が取れるという雰囲気を醸していたドイツは日本をどこかなめていた。2点目を取ったら、この試合は楽勝というような空気を感じた。

 後半頭に冨安健洋を入れて3バックに変更し、そこから三笘薫、浅野拓磨、堂安律、南野拓実を順次投入し、超攻撃的とも言える布陣にした。一見すると「とてもじゃないが守れない」と思える布陣だが、みんなが気迫あふれるプレーを見せ、連動してシステムを超えたサッカーになった。

 劣勢の前半があったからこそ、逆に思い切り良く割り切れたのかもしれない。中途半端にテコ入れするぐらいでは何も変わらない、と。結果的にいい流れを呼び込んだのは森保監督の采配だった。そして、すべてを出し切るという選手たちの強い思いがないと、やはりこの結果は生まれなかった。

 ドイツも面食らった感じがあった。采配を含めて、まさかという展開だったし、このシナリオは誰にも書けないものだった。(FOOTBALL ZONE編集部)