2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■第2ラウンドに入っているW杯

 「ドイツの慢心」ですか、なるほど…。

 9月に日本代表がデュッセルドルフでアメリカ、エクアドルと対戦したとき、「ドイツのお膝元で手の内を見せてしまっていいのか」と懸念したが、杞憂(きゆう)だった。同時期にドイツ代表が欧州ネーションズリーグの重要な試合を控えていたこともあってか、ドイツ国内の日本代表に対する関心は驚くほど低かった。いや、ゼロに近かった。

 有名な『キッカー』誌など、日本戦の試合結果もなし。ドイツでは日本など歯牙にもかけていない証拠だった。たしかに、そうした「空気」が「慢心」を生んだのかもしれない。

 さて、楽しみに待っていたワールドカップも、始まってしまうとあっという間に試合が飛び去っていく。各チームが1試合ずつ戦う「グループステージ第1ラウンド」が早くも終了し、「第2ラウンド」もきょうで半分が終わる。大会前に「優勝候補」に挙げられたチームのなかでも、思いがけなく足元をすくわれたチームや苦しい戦いをしているチームもあれば、期待に違わぬ力を発揮したチームもある。

 私が見たなかで優勝を争う力があると感じたのはイングランドとブラジルだ。

 イングランドは初戦イランに6-2で大勝した。イランが弱いのではないかという印象をもったファンも多いかもしれないが、そうでないことは、相手のGK退場に助けられたとはいえ、イランが第2戦でウェールズに2-0で勝ったことにより十分証明されるはずだ。

 ブカヨ・サカ、ハリー・ケイン、ラヒーム・スターリングが並ぶイングランドの強烈なFWラインには、マーカス・ラッシュフォード、カラム・ウィルソン、ジャック・グリーリッシュという負けず劣らずの「第2ライン」が控えており、終盤に彼らが出てくると血に飢えた獣のように相手ゴールに襲いかかる。イランのDFラインはさぞ迷惑だっただろう。

■超攻撃的かつ守備もするブラジル

 だがイングランドで私が最も感心したのは、アンカーのデクラン・ライス(23歳)、インサイドMFのジュード・ベリンガム(19歳)とメイソン・マウント(23歳)の3人で構成された、これまでのイングランド代表には見られなかった中盤の戦術能力の高さだ。「獣」のようなFW陣がピッチのラスト3分の1のところで遺憾なくスピードを発揮できるのは、中盤の3人がパス回しや位置取りの妙で相手の守備の絞りどころをなくしてしまうからだ。

 少なくとも、今大会のイングランドは、1980年代からのワールドカップで、最もその時代のサッカーの頂点に近い内容のサッカーをプレーしているチームのように感じられる。

 一方のブラジルは攻撃陣の強烈な個人技とスピードに尽きる。右のラフィーニャ、左のヴィニシウス・ジュニオール、そして中央のネイマールとリシャルリソン。東京オリンピックチームのエースだったリシャルリソンの急激な成長で、ネイマールが自在にポジションをとってチャンスメークに回れるようになったのは大きい。

 超攻撃的なチームだが、ボールを失った瞬間の守備への切り替えの迫力はおそらく今大会ナンバーワンだろう。とてつもない才能をもったアタッカーたちがこれほど守備に手を抜かないところに、チッチという監督の偉大な能力が示されている。

 大会はまだグループステージの半分を終わろうとしているところ。大会序盤に好調だったチームが調子を落としていくことはよくあることだし、逆に序盤でつまずいたチームが立て直して尻上がりに良くなり、決勝まで進んでしまうこともたびたび見てきた。

 「7試合目(決勝戦)」の予測などできないが、「今大会で見ておくべきチーム」は、後藤さんにとってどこだろうか。