サン・セバスティアンは、フットボールによって、フットボールのために生きている街だ。住民の多くはレアル・ソシエダのファンであることを自負しており、公園や通りを歩いていても、バルセロナやレアル・マドリーなどの欧州の強豪チームよりもチュリ・ウルディン(ソシエダの愛称)のユニホームを着た人たちに出くわす頻度が圧倒的に多い。

 そんな人々の話題の中心は、当然ながら、ソシエダに関するものだ。タケ・クボ(久保建英)はプレークオリティの高さと競争心を発揮することで加入してから数か月の間で、フットボール熱の高い街のファンのハートを鷲掴みにした。しかもそれは相思相愛の関係で、カタールW杯初戦のドイツ戦の前日、レアル・マドリーへの復帰の可能性について問われたタケは、「今僕はソシエダの選手だ。それ以外のことは考えていない」と一蹴した。

 そのドイツ戦、タケはスタメンで出場。ポジションはソシエダでも経験している左サイドだったが、しかし勝手はだいぶ違っていた。

 日本のいい形で試合に入り、マエダ(前田大然)のシュートがゴールネットを揺らしたが、明らかなオフサイド判定で取り消された。しかしタケは攻撃に絡めなかった。見せ場と言えるのは、鋭い出足で逆サイドまでプレスを仕掛け、ニコ・シュロッターベックからボールを奪った場面。しかし右足で蹴り込んだクロスはアントニオ・リュディガーにブロックされた。
 
 その時間帯になると日本は劣勢を強いられるようになり、33分にはイルカイ・ギュンドアンのPKで先制を許した。日本代表の監督(森保一)は軌道修正を図り、後半開始と同時にタケに代えてトミヤス(冨安健洋)を投入。タケのW杯デビュー戦は、不完全燃焼に終わった。

 私見を挟ませてもらうと、決してタケのプレーが悪かったとは思えない。確かにいい形でボールをもらえず、得意のドリブルも不発に終わったが、そんな中でもラ・リーガで培ってきた守備力を披露。パスコースを巧みに消しながら、積極的かつ献身的にプレスを見せた。

 いずれにせよ、こうした防戦一方の展開を強いられる中、前半のみで交代させられると、いい気をするはずがない。機嫌を損ねる選手も少なくない。しかしここ数か月間、そのプレーと振る舞いを見守ってきた我々はタケがそんな選手ではないことを知っている。それは、日本がゴールを決めるたびに、チームメイトの輪に加わって喜びを爆発させる姿が示していた。

 試合後には、スラングを交えながら流暢なスペイン語で、「プレスがあまりハマっていないと判断して、僕に代わってトミ(冨安)を投入し、5バックにした。プランの1つとして用意していたもので、1点のリードを許していたので予定より早く見直すことになった。マジで上手くいった」と語った。

 満足なプレーができない中でも、改めてタケは千両役者ぶりを見せた。こんなところも誰からも愛される所以だろう。プレーを見る限り、ヨーロッパリーグのオモニア戦で痛めた左肩の状態も良さそうだ。今後の巻き返しに期待したい。

文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸

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