カタール・ワールドカップを戦った日本代表選手で、最もハイレベルな日常を送っている選手といえば、冨安健洋だろう。アーセナルの一員として、イングランドのプレミアリーグで戦う男に、ほかのメンバーも並び立つことができれば、勝てる集団になるはずだ。

上写真=クロアチアにPK戦で敗れて、冨安健洋は「現実を受け入れないといけない」(写真◎Getty Images)

■冨安健洋カタール・ワールドカップ出場記録
・11月23日 グループE第1戦/○2-1ドイツ=後半から出場
・11月27日 グループE第2戦/●0-1コスタリカ=出場なし
・12月1日 グループE第3戦/○2-1スペイン=68分から出場
・12月5日 ラウンド16/▲1-1(PK1-3)クロアチア=フル出場

「フォーメーションはあってないようなもの」

 4バックか、5バックか。

 日本代表がカタール・ワールドカップで採用したのは、その2つ。グループステージのドイツ戦は4-2-3-1の布陣でスタートし、1点を先行されると、後半からは守備時に5-4-1となる3-4-2-1の並びに変更した。

 スイッチになったのが、冨安健洋の投入だった。久保建英に代わってピッチに入ると、右から板倉滉、吉田麻也、冨安で3バックを組んだ。

 コスタリカ戦も後半から変更すると、スペイン戦はキックオフから3-4-2-1システムを採用した。ここで冨安は2-1に逆転したあとの68分から登場して、1点のリードを守り切る「クローザー役」を見事に全うした。

 そして、クロアチアとのラウンド16ではついに先発、吉田、谷口彰悟と組んだ3バックの右に入って120分を戦い抜いた。

 ドイツ、スペインには前半の苦境から逆転勝利、しかしコスタリカ戦では1点が遠く0-1で敗れ、クロアチア戦ではPK戦で敗退の憂き目にあったものの、延長戦まで戦って1-1というイーブンスコアだった。

「僕の意見では、4枚だから攻撃的、5枚だから守備的というわけではなく、やるサッカーによって違うと思います。フォーメーションはあってないようなもので、状況に応じて変えればいい」

 システムそのものがチームのスタイルを確立させるわけではなく、スタイルを最大限に生かすためにシステムを使い分けるという考え方だ。

 今回のワールドカップを通して、守備的な戦いから前に進んで、攻撃に軸足を移す進化が必要だと多くの選手が訴えている。もちろん、5バックにして守備から整えたことで、ドイツやスペインという世界の強豪に逆転勝利を収めたのは事実。しかし、日本の未来をその先に見据える意欲がこぼれ落ちる。

「次のステップに進むためには、そういうものも必要になってくると思っています」

「そのアプローチはしていくべきだと思いますし、若い選手たちも多いので、そういった選手たちで新しいものを作っていかないといけないのかなと思います」

 新しい未来に向けて、リーダーになるべきが冨安だろう。アーセナルで主力の一人として世界最高峰のリーグで日常を過ごしているのだ。日本代表のすべてのメンバーが、この「冨安クラス」を満たすことができれば、その未来に近づく。

「本当に当たり前のレベルになれば勝てる集団になると思いますし、なぜブラジルや、前回大会で優勝したフランスが強いのかというと、普段どおりのプレーで勝ててしまうから。120パーセント出さなくてもいいわけです。そういう集団になっていくには本当に時間が必要ですし、それが可能かどうかもいまはわからないです」

 日本は120パーセントを費やして、ようやくドイツとスペインに勝った。彼らに歴史的勝利を収めた充実感は格別だったが、それとは別に、だからこそまた新たな世界線が目の前に開けた。それこそが、いまの日本が見ることのできる「新しい景色」なのだろう。

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