2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■埼玉スタジアムからの帰宅より楽
韓国がガーナに敗れた試合を見た後、ポルトガル対ウルグアイ戦を見るためにメトロの駅に向かったら入場制限で時間がかかってしまった。おかげで、途中で美味しいものを食べようという計画が不可能になって、「高くて不味い」と評判のメディアセンターのカフェでの食事になってしまった。だから、今はカタールのことをあまり褒める気にはならないのだが、たしかに客観的に言えば、交通の流れはきわめてスムースだ。
僕はドーハの中心からさらに20キロ以上南にある宿泊所に泊まっている。ここには、たぶん1万人ほどの各国のファン・サポーターが泊まっているはずだ。隣人はアルゼンチン人だ。
しかし、まったく交通の不便は感じない。たとえば、ドーハから最も遠いアルバイト・スタジアムは僕の泊まっている宿泊所からは70キロほどある。ところが、22時開始の試合が24時に終わってすぐに移動すれば、1時45分頃には部屋に戻れるのだ。埼玉スタジアムから東京都内の自宅に帰るより、よっぽど楽なのである。
スタジアムまでの交通手段の選択は3つ。メトロと一般サポーター用シャトルバス。そして、メディア用シャトルである。
宿泊所からスタジアムまでの直行バスは10分間隔くらいで出ているから、これが最も便利なようだが、問題はそのバスがどこに到着するか、だ。
初めてルサイル・スタジアムに行くときに直行バスに乗った。ところが、スタジアムから3キロも離れたところでバスを降ろされたので、暑い中を延々30分歩かされてしまった。
実は、ルサイル・スタジアムはメトロのルサイル駅のすぐ近くだった。だから、2度目からは必ずメトロを利用することにした。宿泊所からはメトロ「赤ライン」の最南端アルワクラ駅までのシャトルが頻繁に往復しているので、ここから「赤ライン」最北端のルサイル駅に向かうのだ(始発駅だから必ず座れる)。
こうして、スタジアムまでの距離を考えて、交通手段を選択するわけだ。
■なぜ砂漠に高速道路が?
メディアのシャトルはメディア入口のそばまで行けるので便利だが、これに乗るにはメイン・メディアセンター(MMC)まで行かなければならず、MMCのバス乗り場はメトロ駅からかなり遠いので、僕がメディア用シャトルを利用するのは試合終了後、他のスタジアムに向かう時だけだ。
しかし、今日のように時間に余裕がある場合には、メトロで途中下車して市内のレストランで食事をすることが多い。
あるいは、シャトルバスを降りた近所にレストランがあればそれがベストだ。
たとえばアルトゥママ・スタジアムだ。
同スタジアムはアルワクラ市内にあり(「ドーハの悲劇」の舞台、アルアリ・スタジアムからも近い)、宿泊所からも遠くないので直行バスが便利だ。だが、直行バスはスタジアムの西側の周囲に何もない場所に到着する。しかし、メトロのフリーゾーン駅からのシャトルはわずか10分でスタジアムの東側の住宅街に着いて、近所には安いレストランが散在しているので、こちらを選択した。
いずれにしても、カタールが交通問題を見事に処理していることは間違いない。
それを可能にしたのは、もともと出稼ぎ労働者の移動手段としてバス交通が発達していたからだ(カタール国籍を持つ裕福な人たちは自家用車を持っているのでバスなどほとんど利用しない)。そして、天然ガス収入による豊富な資金と出稼ぎ労働者の安い労働力を使って、何もない砂漠地帯に片側3車線、4車線の高速道路網が建設されていたからでもある。