「ワールドカップのようなビッグトーナメントでは、全ての試合が綺麗なバラ色に染まることはない。厳しい試合も当然出てくる。イングランドはグループステージを勝ち上がれると思っているが、アメリカ戦は……お粗末だった。

 私も落胆している。正直もっと良い内容の試合を期待していた。だが、前向きに評価できる点もある。無失点に抑えたのはそのひとつ。後半、失点しなかったのは、国内リーグでも代表でもパフォーマンスを批判されてきたハリー・マグワイアの奮闘があったからだ」

 イングランド代表をそう評価したのはOBのガリー・ネビル氏である。25日に行なわれたワールドカップ(W杯)グループステージ(B組)第2節のアメリカ戦で、イングランド代表は0-0のドローで終えた。

 6-2で大勝したイラン戦に続いて連勝していればグループステージ突破が決まっていたが、決着はウェールズ代表との最終節に持ち越しとなった。アメリカの攻撃に苦しむ時間もあり、褒められる内容ではなかったが、G・ネビル氏は最低限の結果を掴んだことに納得している様子だった。

 元イングランド代表MFのジャーメイン・ジェナス氏も「アメリカが勝利しても不思議ではなかった。彼らが中盤を支配し、イングランド陣内へ攻め込んだ。だが負けなかったのは大事。ビッグトーナメントを戦ううえで、パフォーマンスの冴えない試合で結果を掴んでいくことは必要」と評した。
 
 試合を振り返ると、序盤はイングランドが優勢だったが、アメリカが徐々に持ち直していった。アメリカが43分にクリスティアン・プリシックのヘディングシュートでチャンスを作ると、テレビ中継で解説を務めたイングランド代表OBのリー・ディクソン氏は「イングランドは少し心配ですね」と嘆いた。

 後半もアメリカがプレスで敵陣に押し込み、なかなかイングランドは試合の流れを引き寄せられない。試合中にアメリカのサポーターが、このスポーツをフットボールと呼ぶ母国イングランドのファンに向けて「これがサッカーだ!」とチャントで揶揄する場面もあった。最終的にスコアレスドローで終わると、イングランドのサポーターは自軍の選手に強烈なブーイングを浴びせた。

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 試合後、解説陣で議論の的になったのがガレス・サウスゲイト監督の采配である。試合中、指揮官はジャック・グリーリッシュ(68分)、ジョーダン・ヘンダーソン(69分)、マーカス・ラッシュフォード(78分)の順に交代カードを切っていったが、5人の交代枠の内、使ったのはこの3枠のみ。

 この采配に疑問を呈したのが、総合解説を務めた元アイルランド代表MFのロイ・キーン氏だった。パスの受け手にも出し手にもなるフィル・フォデンをなぜ起用しなかったのかと、51歳の元アイルランド代表は指摘した。

「正直、フォデンを出さない采配には驚いた。もちろん、ガレス(・サウスゲイト)はフォデンを誰よりも深く知っている。だが得点の欲しい状況に置かれているのだから、フォデンを投入すると期待した。彼はすぐにインパクトを残せる選手だからね。イングランドは決め手を欠いていたし、攻撃のアイデアも不足していた。イングランドにはゴールを奪う気配すら感じられなかった」
 
 元イングランド代表FWイアン・ライト氏もキーン氏の主張に同調する。

「後半は、フォデンを起用するのに最適なタイミングだった。所属先のマンチェスター・シティでは、相手がしっかりと守備ブロックを敷いてくる試合展開が多いからね。フォデンはこうした状況に慣れているし、突破する術もある。ワンツーやパスでゴール前の危険なエリアに入っていくのも得意だ」

 さらにG・ネビル氏は、イングランドのベンチには交代で起用すべき選手が他にもいると述べた。

「ゴールが欲しいのなら、トレント・アレクサンダー=アーノルドを起用してもよかった。彼は世界最高峰の攻撃的サイドバックだからね。フォデンと共に、彼ら2人がベンチから出てこなかったのは残念。この試合を勝ちに行っていたなら、なおさらだ」


 
 英メディアも、イングランド代表とサウスゲイト監督に辛辣な意見を並べた。

 英紙タイムズは「アメリカ戦で大あくびをした。勝利したかったが、イングランドのパフォーマンスは非常に貧弱だった。またしてもサウスゲイト監督は選手交代で試合の流れを変えられなかった。これまでも、あまりに慎重な指揮官の采配は議論の的になってきたが、この試合で再燃することになった。

 イングランド代表の選手の多くが、ジョゼップ・グアルディオラ、ユルゲン・クロップ、アントニオ・コンテといった名将から指導を受けている。そして実際、所属クラブでは輝きを見せている。では、イングランド代表ではどうか? アメリカ戦のイングランドは爆発力を欠いた。そうなると、批判の矛先はサウスゲイトに向けられることになる」

 過激な意見で煽ることの多い英大衆紙も、やはり批判的な論調だった。サン、デイリー・ミラー、デイリー・スターのタブロイド主要3紙は、試合観戦中のスタンドで大あくびをしていた控えGKアーロン・ラムズデイルのガールフレンドの顔写真を一面に掲載。1984年発売の米国人歌手ブルース・スプリングスティーンのヒット曲「Born in the U.S.A.(アメリカに生まれて)」の曲名にかけ、「Yawn in the USA(アメリカで大あくび)」の見出しでイングランド代表のプレーが退屈だったと報じた。
 
 英紙サンは「ずさんで刺激がなかった。インスピレーションを欠いた」とバッサリ。プレー分析に定評のあるスポーツサイト・アスレティックも「アメリカ戦はサウスゲイト監督の限界が見えた試合だった」と批判した。

 振り返れば、これまでもサウスゲイト監督の采配には度々疑問符がついてきた。

 欧州選手権のファイナルで敗れた昨年のイタリア戦も、W杯ロシア大会準決勝で敗戦した4年前のクロアチア戦も、サウスゲイト監督の采配と戦術がやり玉にあがった。試合中、大胆な戦術変更で流れを引き寄せられない、あるいは選手交代で試合の流れをダイナミックに変えられない──。

 欧州選手権で準優勝、W杯ロシア大会で4強進出と結果を残してきたことから、これまで絶対的な批判にはつながらなかったが、その手腕に懐疑的な眼差しを向けられたのは今回が初めてのことではない。

 世界有数のタレントを誇るイングランド。ここからの戦いは、サウスゲイト監督の力量が大いに問われることになる。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部