ビールはほぼここでしか飲めない

 W杯期間中に行われるファンフェスティバルには、各国のサポーターが集まる。メインの巨大スクリーン+サブの中型スクリーンの前に大勢が揃って観戦するわけで、当然かなり盛り上がる。大会スポンサーのイベントブース、フードコートもあるのが恒例で、いろいろな楽しみに溢れている。

 カタール大会のファンフェスティバルを訪れたのは、フランス×デンマークの後半途中だった。前方にいる人たちは腰を下ろし、後方の立ち見の人たちが見えるようにしていた。これはブラジル大会、ロシア大会では見られなかった光景で、配慮が行き届いているなと思った。あとでわかったのだが、その後にアルゼンチン×メキシコがはじまる前に「前の方は座ってください。後ろの方も見えるようにしましょう」とアナウンスしていた。仕切りがしっかりしているし、みんなその通りにする秩序がそこにはあった。

 カタール航空やハイセンスといったスポンサーブースの他、FIFAミュージアム、FIFAショップなどがあり、いずれも賑わっていた。ミュージアムには初代ワールドカップのジュール・リメが飾られていたが、以前にカップとトロフィーには明確な違いがあり、カップは盃になっていてその他がトロフィーなんだと聞いたことがあった。なるほどジュール・リメは盃になっていて、これを掲げるときは「カップを掲げる」となるが、現在は「トロフィーを掲げる」となることを確認できた。

 街中飲食店はもちろん、開幕直前にスタジアム周辺での販売が禁止されたアルコールに関しても、ここでは販売されている(一部ホテルでも外国人向けに提供されている)。やはりと言うべきか、スポンサーであるバドワイザーの売店は噂通りに混んでいたが、オペレーションがよく次から次に捌かれていて待ち時間はほぼなかった。カウンターにいくと「何杯?」と聞かれ、「1杯」と答えると後方に用意済みのなかから1杯を取り、すぐに渡してくれる。便利な2杯セット、4杯セットなども事前に準備してあり、個数を聞いて出すだけの効率のよい対応をしていた。気になる1杯の値段は本当に50リアル=約1900円で、ほどよく冷えていた。

 ファンフェスティバルのなかでは、飲み干したカップを山のように積んでいるサポーターが所々にいた。猛者は一人で5杯~6杯は飲んでいる。入場したばかりのインド系カタール在住者に「バドはどこで買える?」と声もかけられた。試合の合間にはミュージシャンによるライブがあり、夜空には花火が打ちあがり、ドローンを使ったパフォーマンスもあった。

 サッカーを中心に、国籍、人種、思想、服装など関係なくさまざまな人たちが集まり、それぞれ自由にその瞬間を楽しんでいた。普段どおりのワールドカップの光景が、ファンフェスティバル会場にあった。

文/飯塚 健司(ザ・ワールド編集ディレクター)