カタールワールドカップも、終盤に入ってきた。日本代表はPK戦で敗れたが、同じ形で大会を去るチームは他にも出た。また、同じ数だけPK戦での勝ち上がりもある。ワールドカップとPK戦には、どんな因果関係があるのか。サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。

■PK戦になった試合は「引き分け」

 日本代表がクロアチア戦でPK戦に敗れて、目標としていた「ベスト8」には惜しくも届かなかった。そこで、今回はこのPK戦について考えてみたい。

 いまだに誤解している人も多いようだが、この「PK戦」(正確にはPK方式=ペナルティー・シュートアウト)というのは、あくまでもノックアウト式トーナメントで試合が引き分けに終わった場合に「次のラウンドに進むチーム」を決めるための方法の一つなのであって、試合自体は「引き分け」として記録される。

 1930年代にはワールドカップでも引き分けに終わった場合は再試合が行われていたし、その後、スケジュール的に再試合が難しくなったため抽選という方法も採用された(幸いにも、ワールドカップで抽選が行われたことは一度もなかった)。

 そして、1982年のワールドカップで初めてPK戦が採用された。

 1982年大会は24チームが参加し、1次リーグ、2次リーグと進んで、ベスト4が出そろった段階で準決勝、決勝が行われるフォーマットだった。つまり、実際にPK戦の可能性があるのは準決勝からだった。

 そして、その最初の準決勝、西ドイツ(当時)対フランスの試合は1対1で延長に入り、ミシェル・プラティニのフランスがいきなり2点を先行したものの、西ドイツが驚異の追い上げを見せて3対3の同点として、PK戦の末に西ドイツが勝って決勝進出を果たした(西ドイツは1976年のヨーロッパ選手権=現在のEURO=決勝でチェコスロバキアにPK戦負けを喫してからPK戦を研究し尽くして、PK戦では絶対の強さを誇っていた)。

■W杯での数々のドラマ

 その後、ワールドカップだけでもPK戦は数々のドラマを生んだ。

 1986年メキシコ大会では準々決勝の4試合のうち3試合がPK戦となった(90分で決着したのは、ディエゴ・マラドーナの“神の手”ゴールと“5人抜き”があったアルゼンチン対イングランド戦だけ)。守備的サッカーが横行した1990年大会ではアルゼンチンが準々決勝のユーゴスラビア戦と準決勝のイタリア戦をともにPK戦の末に勝ち抜いて決勝に進出。決勝では、同じくイングランドとの準決勝をPK戦の末に勝ち上がってきた西ドイツと対戦し、流れの中のPKでのゴールが決勝点となって西ドイツが優勝した。

 そして、1994年アメリカ大会は決勝戦のブラジル対イタリアがスコアレスドローに終わり、PK戦ではイタリアの名手フランコ・バレージとロベルト・バッジョが失敗してブラジルの優勝が決まった。

 2022年のカタール・ワールドカップでも、ラウンド16ではクロアチア対日本に続いて、モロッコ対スペインもPK戦となってモロッコが勝ち上がり、さらに準々決勝4試合のうち2試合がPK戦にもつれ込み、クロアチアが優勝候補と思われたブラジルを破った。

 クロアチアはグループリーグでカナダに4対1で勝利したものの、モロッコ、ベルギーとは引き分けており、準々決勝までの5試合を1勝4引き分けという成績でベスト4に進出したことになる。

 また、クロアチアは2018年のロシア大会で準優勝しているが、ラウンド16(対デンマーク)と準々決勝(対ロシア)をやはりPK戦で勝ち上がってきており、2大会連続でPK戦を武器にベスト4に進出した。

■1990年と今大会の違い

 1990年にアルゼンチンが2度のPK戦を経て決勝まで勝ち進んだ時にはかなり非難を浴びたものだが、クロアチアのPK戦勝利についてはさほど批判はないようだ。

 優勝経験のあるアルゼンチンのようなサッカー大国とは違って、人口約400万人の小国クロアチアがサッカー大国ブラジルを倒すのであれば、PK戦という手段も許されるということなのか。あるいは、アルゼンチンがPK戦で開催国イタリアを破った試合が当時SSCナポリに所属していたマラドーナの本拠地ナポリで行われたため、イタリア北部でマラドーナへの反感が強かったのに対し、ルカ・モドリッチが万人に愛される人格者であることの結果なのかもしれない。

 もちろん、PK戦という方式が採用されている以上、それに対して万全の準備をして、PK戦で勝ち進むことで批判を受ける理由はない。ドミニク・リヴァコヴィッチという勝れたGKを擁し、PK戦のための周到な準備を行ったことがクロアチアの躍進につながったのであって、そのことは称賛すべきことであって決して非難すべきことではない。

 だが、これほどPK戦決着の試合が多くなってしまうと、ワールドカップにおける順位というものの価値が失われてしまいかねない。

 試合はいずれも引き分けだったのに、クロアチアは2大会連続ベスト4以上という成績となり、準々決勝のPK戦で敗れたロシアやブラジルは5位以下、ラウンド16のPK戦で敗れたデンマークや日本は9位以下となってしまうのだ(ワールドカップでは各ラウンドで敗れたチームにも勝点などによって順位付けがされており、ブラジルは7位、日本は9位というのが最終成績となる。ちなみに、グループリーグ敗退の中で最上位はドイツの17位、最下位はカタールの32位)。