交代まで自身のプレーの感触の良さを振り返る

 無念さは、痛いほど伝わってきた。現地時間12月1日のカタール・ワールドカップ(W杯)グループE第3節のスペイン代表戦に、MF久保建英(レアル・ソシエダ)は2試合ぶりに先発出場を果たした。

 この試合に向けて、誰よりも高いモチベーションを持っていたはずだ。前回の先発出場したドイツ戦では前半45分間のみでベンチへ退いた。久保が退いた後半、日本は3-4-2-1へのシステム移行も機能して、ドイツに2-1と逆転勝利を収める。続くコスタリカ戦(0-1)では久保の出場機会はなし。幼少期を過ごし、現在もプロサッカー選手として活躍をするスペインを相手に、自身の価値を示したいという思いは強かっただろう。

 守備に忙殺されたドイツ戦と異なり、この日の久保は守備をこなしつつも、何度か高い位置でボールを受けてカウンターにつなげる場面もあった。前半36分にはエリア内でもボールを保持し、チャンスを広げようとしていた。しかし、森保一監督は前半のみで久保をベンチへ下げた。そして久保は、チームが勢いづいて一気に逆転する後半をピッチ外から見ることしかできなかった。

 前日の練習後のミックスゾーンでは、質問を寄せ付けないような雰囲気を出していた久保だが、スペイン戦後は対照的だった。「嬉しいですね。良かったです。本当に」と笑顔でミックスゾーンに現れて報道陣を和ませると、現在の心境について「終わったかと思いましたけど、すぐに着替えて(ベンチに)戻ったら、1点入って『おおっ!』と思ったら、すぐにまた2点目が入って、ビックリしましたね、正直。あんなにうまくいくとは思っていなかったので」と、自身が下がった後のチームの変貌ぶりを語った。

 笑顔を見せてミックスゾーンで話し始めた久保だったが、悔しさをかみ殺していることは、すぐに伝わってきた。

「個人的なことを言わせてもらうと、今日は身体もキレていたので、このままやってやろうと思った矢先の交代だった。そこはちょっと悔しかったですけど、出ていない自分ができることは、味方を信じることだけだった。プレスの仕方も変えて、前半から行っても良かったのですが、後半から行こうという話をしていたので、そこはある意味、前半は捨てた形になりましたけれど、最小限の傷で後半に臨めて良かったかなと思います」

前半のコンディションが良かったからこそ交代は「ドイツ戦より悔しかった」

 前半の久保らの我慢があったからこそ、後半の立ち上がりにスペインは急に攻撃にギアを入れてきた日本に面食らった面もあるだろう。

「ドイツ戦と違って、前半はやれることはやれたと思います。何度か惜しいシーンもあって、カウンターも嫌がっていたと思います。僕もコンディションが良かったし、いいプレーをしていたと思うので」と話す久保は、前半にパスが味方に通らなかった場面や攻撃を仕掛けきれなかった時も、すぐに守備に切り替えていた。後半になれば、もっと持ち味を出せるはずと信じていたようだった。

 しかし、再びハーフタイムで交代となった。「そういった意味では、ドイツ戦より悔しかったですけれど、次もありますし、前半から出るチャンスがあれば、次は前半で交代させられないように結果を出すしかないなと思いました」と語った。

 前半は相手の攻撃を受けて、後半に逆襲に転じる日本の戦いぶりは、『死んだふり作戦』とも言われている。『死んだふり』をしている前半しか、出場機会がないことは、攻撃の選手としては堪えるだろう。ミックスゾーンでの久保の目は、潤んでいるようにも見えた。

「今日の交代は、僕は予想していなかったので。個人的なことだけを言わせてもらうと、すごく悔しかった。本当にチームの戦術なので。前から行くのであれば、もっといいプレーができたと思いますし、ボールが足元についていたし、取られる気もしなかったので『もっと俺のところにボールをくれ』と思っていました。コンディションは良いので、次にチャンスをもらえたことをチームメイトに感謝して、次に良い準備をしたい。さっきも言ったように、前半から結果を出すしかないのかなと思います」

 次に対戦するクロアチア代表は、ドイツ代表やスペイン代表ほど、ポゼッションを重視するチームではない。日本の戦い方も大きく変わってくるはずだ。W杯優勝経験のあるドイツとスペインの試合で、チームのために自分を犠牲にした久保にも、きっと自分の本来のパフォーマンスを出すチャンスが来るはずだ。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)